The Structure of ”After School Saicoro Club” #5

#4の続きです。

単行本4巻が出たことですし、今後についての希望を別記事に書く予定です。
ゲッサン20150

と予告していましたが、書きたかった内容はこの2つ。
ゲームとは何か」「ボードゲームと教育
長くなったので、「ボードゲームと教育」は#6に。
次はゲッサンゲッサン miniマイナスの記事を書く予定ですが、
それを書き終わる頃にはサンデーSの記事を書く時期になると思われるので、
続きは早くても1月末にはなりそうです。


ボードゲームと教育」を語ろうとすれば、その前に「ボードゲーム」「教育」
両方の定義が必要なので、まずは「ゲームとは何か」から。


1) ゲームとは何か
ぶっちゃけwikiに書いてあるのですが、それを見る前に「ゲームとは何か」を考えてみて下さい。


放課後さいころ倶楽部』 4巻 p37 中道裕大

「ゲームとは何か」を知らずしてゲームを作るのは可能ですが、
知った方がより良いゲームを作り易いとみています。
ただ、作った事が無いので何とも言えない所ですがねw


「ゲームとは何か」
いくつか定義がある中で、コスティキャンの定義がボードゲームに最も近いと考えています。

ゲームとは「充分な情報の下に行われた意思決定 (decision making)をもって、
プレイヤーが与えられた資源を管理 (managing resources)しつつ自ら参加し、
立ちはだかる障害物を乗り越えて目標 (goals)達成を目指す」ものであるとした。
wiki ゲーム コスティキャンによる定義

ボードゲームでは情報が資源として扱われてるものもありますし、
目標が無かったり無視されたりする事もそこそこありますから、
(『テレストレーション』を勝つ目的でプレイする人は稀でしょう)
この定義が完全に当てはまるる訳ではないですが、ことボードゲームにおいては
資源」「管理」「障害」、概ね「目標」の4要素が必要なのは確かだと考えています。

アル隊長
(ブルーノ・)フェデュッティが「ミニマムゲーム」って言って『ラブレター』を凄い評価してて、
俺も日本のゲームってのはこういうミニマムな奴が良いと思っているんですね。
土壌がドイツとは違うんで、日本人がでっかいボードを使った奴を作ろうと思っても、
コスト面的にも厳しいし、同じようなのは作れないと。
やっぱでも日本人は手先の細かさとか、こういうミニマムなものを作るのが優れているので、
『ラブレター』は日本人が作ったゲームっていうのを具現化しているゲームだと思うので、
素晴らしいと俺は思ってるんですね。
ボードゲーム数寄語り。第49回「放課後さいころ倶楽部第4巻・その2』 28:54〜29:27

ここで、アル隊長がこう述べている、『ラブレター』に当てはめてみましょう。

ラブレター (Love Letter) カードゲーム

ラブレター (Love Letter) カードゲーム

放課後さいころ倶楽部』 4巻 p55 中道裕大

『ラブレター』最大の特徴は、その「資源(リソース)」の少なさでしょう。
リソースとなるはカードはたった16枚8種類で、キープする手札はわずか1枚。
自分の手番(ターン)になると(ターンもリソースです)、カードを1枚引き、
どちらのカードを使うか選びます。選ぶ行為は「管理(マネージメント)」にあたります。
カードの効果を誰に使うのか、どう使うのかもまた「管理」です。
「障害」は他のプレイヤーで、「目標」は最後まで脱落しないこと。
とてもシンプルなゲームですが、それでも上記の「資源」「管理」「障害」「目標」を含んでいます。
もちろん例外はありますが、これらの要素が概ねボードゲームに当てはまる事が伝わったでしょうか。


話は脇道に逸れますが、アル隊長の発言は
「ミニマライズ(minimalize)」と「ミニチュアライズ(minaturize)」を混同してるように見受けられます。
Minimalisme japonais – Japanese Minimalism
フェデュッティは「日本のミニマリズム」という題でブログに寄稿しています。
ミニマリズムポストモダンの過剰な装飾を批判し、簡素化を目指したものであり、
小型化とはニュアンスが異なります。
よりシンプルに、より素材を活かすことと、物理的にコンパクト化を図る違いというか。
どちらも大和民族が得意とする分野なのは共通しているのですが。


2) ゲームの楽しさ
ゲームに楽しさが無ければプレイしたいとは思わないでしょう。
ゲームの要素が4つだと仮定するなら、そのどれかに楽しさの原因がある筈です。
と言うか、どの要素も楽しみに繋がると考えます。
だからこそ4つの要素があるとも言えるのですが。


「資源」ならば、例えば『カタン』だと街が増え、都市へと発展することで、(これ自体も資源です)
木や麦などの資源が増える確率が上がり、どんどん資源が増えていく。
そこに楽しみを見いだせる..つまり、「資源」自体に楽しみが含まれています。
「目標」も大半の人間は勝つためにプレイしているので、勝てれば嬉しいですし、
そこに「障害」が無ければ達成感も湧かないでしょう。


3) リソースマネジメント
しかし、最も重要な要素は「管理(マネジメント)」だと考えます。

アル隊長
勝って面白いってのは、そりゃ「勝ったから」ねって言う話じゃん。それは。気分よく。
「いやこのゲーム面白いわ。もっかいやりたいわ」って言うのが良いゲームだと思う。
全員が配牌が良いってのは無理だと思うので、負けた中にも嫌な負け方じゃない。
だからすげー嫌がらせで負けたとかさ、やりたい事が出来ずに負けるとフラストレーションが溜まるけども、
やる事はちゃんとやったけど、自分の力不足で勝てなかったというのが分かってれば、
次はこーしようかな、、あーしようかなってのが分かるから、良いんじゃないかなっていう。
円卓P
そうですね。次が期待できるというか、次やったらもっと上手くやれるっていうね、
もっと違った展開が楽しめるみたいな、ね。
ニトーキン
そういうゲームを作ったつもりでいるよ、俺はw
ボードゲーム数寄語り。番外編「ゲッサン8月号 放課後さいころ倶楽部第26話」 5:58〜6:58

マネジメント要素がほぼ無いゲーム、例えば単純なすごろくにも楽しみがあるのは確かですが、
放課後さいころ倶楽部』 4巻 p28 中道裕大

アヤの発言にもあるように、ゲームが単調になりがちです。
そして2コマ目以降の批判を、先に挙げた4要素を踏まえてよく観察すると、

「『雑貨』は全部同じコストとポイントやけどもっとバリエーションがあった方がええかも…」
「バイト時間ももっと数字に差があった方が…」
「その方がお金と買い物どっちを取るか迷うもんね!」
「あと同じ系統を集めてポイントが伸びるから (以下略)」

これらの批判のうち、「雑貨」「バイト時間」という単語に注目すれば、
「資源」に言及していると分かるでしょう。
但し、「資源」に原因があるのは確かですが、「資源」が問題なのではありません。
アヤの発言にあるように、「どっちを取るか迷う」
つまり、「資源」の「管理」 = リソースマネジメントの薄さが問題なのです。
最後のミキの発言も、やはりリソースマネジメントの問題です。
勝とうとすれば、他の色を選択する余地が無くなりますから。
という事で、ゲームの楽しさにおいて最も重要な要素が「管理(マネジメント)」だと伝わったでしょうか?


#4で引用したように、『ころクラ』でゲーム作りシリーズが続くという事なので、
個人的にはこの4要素、特にリソースマネジメントに関して触れて欲しいなぁと希望しています。


4) 今後の展開の希望的予測

円卓P
どっちかって言うと、今の形だと、テーマ先行かシステム先行かって言ったら、
テーマ先行じゃん。
ニトーキン
テーマ先行ですね。
円卓P
そこにシステムを当て嵌めて行こうって言うような形になっているから、
そこからどうやってシステムをいじっていくかってのが本当に一番の課題になっていく感じですね。
ニトーキン
だからどこに面白さを見出すかだね。ゲームとしての。
円卓P
案外あのミドリがテーマ先行でゲーム作るってのは俺「へぇそうなんだ」っていう風に思って。
ニトーキン
まぁそこは女の子だからねぇ。
ボードゲーム数寄語り。番外編「ゲッサン8月号 放課後さいころ倶楽部第26話」 15:00〜15:23

そしてもう一つ希望が。
私も円卓P(Pはプロデューサーの略らしいので、さん付けしていません)と似たような
疑問を持っていた...というか、システム先行でゲームを作っていくのだろうと予想していました。

あくまで私の想像ですが、ミドリは自分の感じているゲームの楽しさを、
このゲームに全て詰め込もうとしているのでしょう。それ故にゲームの纏まりが失われている。
だから店長が「コイツは俺の他にも誰か遊ばせたのか?」と尋ねる。
『ラブレター』は、わずか16枚のカードだけでゲームが成立するという、
シンプルの極致にあるゲームなので、ミドリにとっても良いお手本になるでしょう。
ミドリがこのゲームを知らない筈はありませんが、再認識する意味はあるはずです。
放課後さいころ倶楽部 #25

ワンルーム』が漫画に出ているこの段階で、こう書いてますからねw
前半3行の想像は外れていた訳ですけども。
で、予想した理由もその後に書きました。

私がこう予想したのは、以前『ハゲタカ』回で
放課後さいころ倶楽部』 1巻 p166-167 中道裕大



こういう描写があったので、ミドリが作るゲームはシンプルなものかなぁと予想していたからです。
放課後さいころ倶楽部 #26

他にも、こういう設定がありますし。
放課後さいころ倶楽部』 1巻 p40 中道裕大


好意的に解釈すれば、ニトーキンさんのように「女の子だからねぇ」といった理由や、
テンションが上がりすぎて、論理的思考が疎かになったとも取れるでしょう。


実際どうだったかと言うと、

 はじめて自分でゲームを作る!…というゲームクリエイターのリアルな気持ちを知るため、
中道先生とゲッサン編集部で協力して作った『放課後さいころ倶楽部』初のオリジナルゲームです。
「家具をそろえたり、部屋のレイアウトを考えるのって楽しいよね!」
という中道先生のアイディアにより生まれました。
放課後さいころ倶楽部』 4巻 p39 ゲッサン編集部

ワンルーム』回のオマケにこう書いてあるように、ミドリのキャラが考慮に入っていなかったようです。
漫画家は漫画をシステム先行ではなく、テーマ先行で描きます。
そもそも物語というものは、伝えたいテーマを表現する手段なのですから。
放課後さいころ倶楽部』自体が「ボードゲームの漫画を描きたい!」ですし、
中道先生の前作『月の蛇』も「中国の歴史モノをやりたい」ですしね。

月の蛇 水滸伝異聞 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

月の蛇 水滸伝異聞 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

基本的には漫画家はテーマ先行が習性となっているので、ゲーム制作でもテーマ先行になるのは必然。
況してや同じ習性を持つ漫画編集者が協力となれば、システム先行という発想が出なくて当然です。
ですが、何度も書いているように、この漫画はボードゲームの漫画という以前にキャラ漫画なので、
ミドリのキャラを重視するためにも、個人的にはシステム先行でゲームを作って欲しいですね。
ちなみに、システム先行で描く漫画家さんって、私の知る限りでは若木民喜先生くらいです。
(The Structure of "The World God Only Knows" #1 現代視覚文化研究vol.3 p77 の引用を参照)
あまり良く知らない漫画家さんだと、赤松健先生が当てはまりそうですけども


で、どう話を進めていくかですが...
これも既に書いてますけど、シンプル(ミニマム)なゲームをお手本にする。
もしくは、リソースマネジメントがメインのゲームをプレイして、その大切さに改めて気づく。
この時、ハゲタカ回の回想を再描写すれば伏線の回収にもなるでしょう。
そして、ゲーム作りもまたゲームであると気づいてゆく...
ゲームを完成させるという「目標」があり、
ゲームが面白くならないという「障害」があり、
「ワーカープレイスメント」「ドラフト」といった、ゲームシステムに加え、
作品のテーマ、ゲーム制作に掛けられる時間、制作費...
そして、協力してもらえる仲間といった「資源」があり、
その資源をどう「管理」するか...
となれば、メタ的にもなるでしょう。


ミドリが考えを改め、システム先行でゲームを作っていき、
色々あった後にシステム面がほぼ完成し、さてどんなテーマが乗るか...
と考えた時に、例えばアヤ辺りが


「これで『ワンルーム』出来ないかな?」


と言えば、お話的にも上手く纏まると思うのですが、どうでしょうか?
ここで具体的に、バーンとお手本に最適のゲームを紹介出来れば格好いいんですが...
個人的にはリソースやアドバンテージという概念を、RPGマガジンに掲載されていた
『鶴田・中村の免許皆伝!』という『マジック・ザ・ギャザリング』の記事で初めて知ったので、

ドミニオン (Dominion) 日本語版 カードゲーム

ドミニオン (Dominion) 日本語版 カードゲーム

マジック・ザ・ギャザリング』と親和性の高い
ドミニオン』の《村》+《鍛冶屋》コンボを見ると非常にしっくり来るのですが、
一般の読者に対してリソースマネジメントを紹介するのに最適なゲームは、詳しい人に任せますw

円卓P
これセットコレクションだからさ、セットコレクションって言うことは、
やっぱ自分が欲しいものだけ欲しいんだけど、そうじゃなくて、
要らないものもしょうがなく取らなければいけないって言う、ジレンマがないとね、
本当にソロゲームになっちゃう。
ニトーキン
そうだよね。そうそうそう。
だからそれがまぁ結果的に、「何でお前の部屋ダンベル4つもあんだよ」みたいな、
そういうね、結果に繋がっていく訳だからね。
円卓P
そうそうそう。
まぁ『メディチ』とまでは言わないでも、『コロレット』だね。
コロレット』みたいな感じでさ、自分の要らんものも取りつつ、
でもその要らんものを今度軸にして何か新しいコレクションが始まる、みたいなね。
ボードゲーム数寄語り。番外編「ゲッサン8月号 放課後さいころ倶楽部第26話」 16:28〜16:58

コロレット (Coloretto) 日本語版 カードゲーム

コロレット (Coloretto) 日本語版 カードゲーム

円卓Pがこう述べているように、
ワンルーム』に足りない要素を気づかせるには『コロレット』が候補の一つになるのかも知れません。