放課後さいころ倶楽部 #10

放課後さいころ倶楽部
相変わらず素晴らしかったです。
というか、読み込めば読み込むほど、本当によく練られているなと感心します。


今回のゲームは『ミラーズホロウの狼男』

ミラーズホロウの人狼 (The Werewolves of Miller's Hollow) カードゲーム

ミラーズホロウの人狼 (The Werewolves of Miller's Hollow) カードゲーム

『人狼』と呼ばれるゲームで、最近はTV番組にもなってますから、ご存知の方も多いんじゃないでしょうか。
TBS版が『ジンロリアン人狼〜』フジ版が『人狼〜嘘つきは誰だ?〜』という番組名らしいです。


私はカードゲーム版はやった事ありませんが、CGI版は一時期結構ハマってました。
(ベースは『タブラの狼』)
人狼』は個人的にCGIやアプリのようなオンライン向きのゲームかなーとは思ってます。
オフラインでは、目を瞑るという所などにどうしてもズルできる可能性がありますから。
(それを逆手にとった役職「少女」があるバージョンが存在するのもまた面白いところです)
もちろん、オフラインにはオフラインの良さがあるとは思いますけどね。表情や声色を読むとか。
逆にオンラインでは、生き残っている人達の会話を眺めつつ裏でチャットできるという利点もあるのですが。

個人的には、漫画なんですからボードゲームの世界に浸れるように
ゲームの登場人物になりきって衣装とかもそのゲーム風に変えた方が面白そうかなと。
制服だと衣装考える手間がかからなくて楽でしょうけどもw
ゲッサン201305

2-3話目の段階でこう書きましたが、今回はそういう演出も絡めてきました。
放課後さいころ倶楽部ゲッサン2013年9月号 p213 中道裕大

ここで意外性を出すためにも、ゲームキャラになりきる演出が必要になったのかもしれません。
単にキャラがゲームをやってるよりも、ゲームの雰囲気が伝わり易くなったと思います。
人狼』は村人や人狼という役になりきるゲームなだけに、 (正に「ロールプレイ」です)
より効果的な演出ではあったのではないでしょうか。


人狼』は古典的なゲームであるが故に著作権がないので、アレンジバージョンが自由に作れ、
それぞれのバージョンの役職もバラエティに富んでいて、
どのバージョンを選ぶかでゲーム内容が結構変わってくるのですが、
最初にGM (ゲームマスター) と人狼、村人だけに留め、最後の最後で猟師を出す辺りは、
ゲームをなるべくシンプルにして、キャラ描写とキャラ同士の駆け引きに重点を置こう
という意図が伺えます。
放課後さいころ倶楽部ゲッサン2013年9月号 p202 中道裕大

このゲームの肝は会話を通じての駆け引きですし。
で、この駆け引きが漫画においては、
キャラ同士の駆け引きを通じて、読者との駆け引きを仕掛けられている点が特に重要です。

以前、『ハヤテ』考察 The Structure of ”Hayate the combat butler” 4) ミスディレクションの項で書きましたが、
スリードの対象は漫画内のキャラと、読者の2つがあります。
今回の戦闘シーンだと、黒旋風に対しては意外性を出せてますが、読者に対しては出せてません。
そもそも戦術性を出す意味は、まず一つは説得力ですが、もう一つは意外性です。
読者にどういう手があるのか推理させた後「そんな手があったのか」と思わせることで面白さに繋げます。
ゲッサン201105

以前に中道先生の前作『月の蛇』の記事で、作品に意外性が足りないと指摘した上でこう書きました。
それが以下のシーンから連なる意外性のオンパレード。最早脱帽です。
放課後さいころ倶楽部ゲッサン2013年9月号 p202 中道裕大

まずはミドリが「狼になった人は無口にならざるを得ない」という説得力のあるロジックを展開します。
そこから直接読者に犯人を推理させることはせず、別のキャラを犯人に仕立て上げてミスリード


放課後さいころ倶楽部ゲッサン2013年9月号 p204 中道裕大

それを覆すことによって意外性を出しつつ、ミドリのロジックを一旦揺らがせます。
「じゃぁ誰が?」と読者に思わせておいて、人狼のうちの一人をネタばらし。


放課後さいころ倶楽部ゲッサン2013年9月号 p204 中道裕大

それまではその場に居たけどセリフが無く空気だった田上なので、これは盲点になるでしょう。
ここにも意外性が。
さらには田上のモノローグを出すことで、読者は人狼でプレイした時の疑似体験ができます。
また、田上視点になることで、田上が人狼だとバレた時の気まずさがより引き立ってるんじゃないかと。


放課後さいころ倶楽部ゲッサン2013年9月号 p208 中道裕大

それから、喋ってないアキとミドリが人狼だと疑わせた後、
田上が「この子らがウソつけへんのはよう知っとるんや!」というセリフで庇いますが、
却って馬脚を露わす結果に。(狼ですが)
このシーンでは田上がアキに惚れてることを再描写しつつ、
この後に田上のヘタレな描写をビジュアル的な面白さを絡めたりと、キャラ描写も兼ねてます。


ロジカルに考えると、人狼の田上がアヤとミキを庇ったという事は、
残りの人狼はアヤかミキである可能性が高いのですが、
田上を吊るすことによって、シナリオ的には一旦アキやミドリへの注意を逸らすことにも繋がっています。


で、その後人狼のアキはミキを襲うという、ロジカルに考えれば致命的なミス。
放課後さいころ倶楽部ゲッサン2013年9月号 p214 中道裕大

新聞記者の高倉と主婦の宮田真紀子の二人とも「田上が怪しい」と思ったので、
この二人は互いが村人 (もしくは猟師) だと考える可能性が非常に高いです。
となると、ミキの猟師スキルで反撃を受けなくても、この次でアキが吊るされ負け確定です。
なので、セオリー的には高倉か宮田嫁を襲うのが正解です。
そうなると、次の投票でミキはアキに、アキはミキに投票し、
残りの一人は二者択一を迫られます。勝つ確率が1/2になるんですね。
仮にミキがミドリに「嘘ついたカンジはせェへんけど」と言ったのを聞いてた場合には宮田嫁を、
そうでなければ高倉を襲うべきでしょう。
ただ、こういう状況で人狼が仲間の人狼を売ってた場合には、人狼が勝つ可能性が高まります。


漫画ではこのようなロジカルな結末を作るのではなく、
キャラ描写...キャラとキャラとの関係性を描くことでオチにしています。
ここがこの漫画の素晴らしい所なんですよね。あくまでメインはキャラ
キャラを魅力的に描くことによって、
そのキャラに惹かれた読者がゲームにも興味を持ってくれるようになるでしょうし。