The Structure of "Ice Hockey Princess" #4

#1〜3で書き残したことを徒然と。


6) キャラ


6-d) 秋津羽 芙蓉
『氷球姫』 1巻 p134 小野ハルカ

構造的にみれば紅羽・松明・風花の3人が重要キャラで、
現時点で芙蓉はレギュラー6人のうちの一人と、上記3人に次ぐ位置となっています。
『氷の国の王子様』に元ネタとなるキャラはいません。
そういう意味ではハナが元ネタだったシロの方が、今後重要度が増す可能性はあるのですけども。



GRGR もう一つはコンバートで弾き出された選手の担保。 link
以前 (風花がレギュラーに抜擢された第5話連載時) に、 懸念材料の一つとしてこうつぶやきました。 単行本だと上の画像のように、第5話でも芙蓉はかなり目立っているのですが、 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年1号 p224 小野ハルカ 連載時、同じシーンはこういう描写でした。 松明は潜在能力を見抜く力があるキャラなので、風花を抜擢すること自体は問題ないのですが、 それによって弾き出されたキャラをオミットしてしまうのは松明のキャラ的にどうなのよ? という懸念があったんですね。 芙蓉の影の薄さがそれに拍車をかけていました。 その芙蓉を、正GKへとコンバート。 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年9号 p94 (2巻 p68) 小野ハルカ この展開は意外性もあり、ロジックも通っていて素晴らしかったです。 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年10号 p29 (2巻 p97) 小野ハルカ そして、更なる玉突きを防ぐために、正GKこがねを謙虚なキャラに。 この辺りの配慮が行き届いているなぁと感心しました。 あと、今までは紅羽をライバル視している芙蓉ですが、 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年14号 p163 (2巻 p161) 小野ハルカ 今後はキリエと呼ぶのかいのりと呼ぶのかよく分からない、霧江いのりをライバル視するのではないかと。 で、芙蓉のキャラは基本的にツンデレなんでしょう。 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年10号 p28 (2巻 p97) 小野ハルカ 恋愛感情抜きでもツンデレと言うのか?といった疑問や、 「べ、別に(ry」といった照れ隠しできつい言葉を使ってしまうテンプレなツンデレとは違いますけども。 The Structure of "Ice Hockey Princess" #3 で「ツンデレ好き対策が3つある」と書いておいて、 二つしか書いていませんでしたが、芙蓉こそがこれがツンデレ対策その3です。 つまり、ツンデレ好き対策のために紅羽を露骨にデレさせるのではなく、 露骨なデレが好きな人のためにそういうキャラを作っておく。 紅羽が拾いきれない、言わばツンデレ原理主義層を受け止める役割が芙蓉にはあるのだと思います。 という事で、 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年25号 p392 小野ハルカ ...何か気の利いたコメント思いつきませんでしたが、とにかく秋津羽 芙蓉にも注目です。 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年9号 p95 (2巻 p69) 小野ハルカ 7) 展開予想 では、書くと書いておきながら書けてなかった展開予想を。 ...とは言っても、いくつかは既に書いてあるのですけども。 7-a) テンプル戦敗退 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年14号 p161 (2巻 p159)小野ハルカ この段階でテンプル戦に負けることが示唆されていましたが、 個人的には期待通りというか予想通りでした。

GRGR で、個人的には2試合目、勝って欲しくないんだけどなー。どうなるんだろ。単に2試合目勝って目標クリアじゃね。負けて首だと言われたけど選手が紅葉の祖父に直訴する展開の方が燃える。そこで追試してもいいし。 link
紅羽ではなく紅葉って書いちゃってますけどねw 一抹の不安があったので、あえて「勝って欲しくない」と書いたのですが、実のところ 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2013年50号 p35 (1巻 p61)小野ハルカ この段階で既に「あ、こりゃ2戦目負けるな」と思ってました。なので、紅羽と芙蓉がシュート戦した時に、 「この展開やっちゃうと、次の試合負けると読まれるんじゃなかろうか」と危惧していたのですが... そんな事は無かったですねw 私が捻くれた読み方してるだけなのかもしれませんけども。 この書き方だと何の事言ってるのか分かんねー感じになるのでちゃんと説明すると、

練習試合2試合とも勝てば正式に監督として採用する

紅羽の祖父、花籠学園の理事長が出した条件はコレです。
数学的に言うと、2試合とも勝つことが監督就任への十分条件という事になります。
...付いてこれてますか?w
普通に読めば、練習試合2試合とも勝たなければ正式に監督として採用されないという事になります。
なので、練習試合2試合とも勝つことが監督就任への必要条件でもある、となります。
但し、実際には必要条件ではありません
ここがミスリードに繋がり、ひいては意外性へと繋がる訳です。


逆に考えればミスリードになっているという糸口を掴むことができます。すなわち、

練習試合2試合のうち、引き分けか負けがあれば解任

これが成り立つかどうかです。
祖父の条件はこれを暗示してるように思えるかもしれませんが、
実際には連勝しなかった場合について言及していないだけ。
すなわち、連勝できなかった場合には、解任されるかどうかは分からないのです。
これは屁理屈ではありません。ロジカルな思考というのはこういうモノですし、
ここに気づけさえいれば、テンプル戦は負けるだろうと予測はつくはずです。


そして、勝った場合は「やったー監督就任だー」で話は終わってしまいますが、
負けた場合は「この先どうなるんだろう?」といったハラハラドキドキな展開になります。
そして、引き分けた場合は締まらない結末になるので、まず無いだろうと。
「勝ったら○○」「負けたら○○」という条件が出ていれば、引き分けになる結末もアリでしょうけども。



GRGR 『氷球姫』待ってましたこの展開。まぁ常盤木監督就任の条件はこういう展開にする事を前提に作ってたのだろうけども。予め読者に知らせてるのは、そこで意外性出しちゃうとショックを受ける事への配慮なんだろうか? link
テンプル戦で負けることが示唆された第16話掲載時にこうつぶやきましたが、 こういう展開にする事を前提に就任条件を設定したのは間違いないと考えます。 サンデー公式にRTされましたし。 (たぶん関係ない) で、「勝ったら○○」とだけしか言わない展開は、既に他にもありました。 先にも述べましたが紅羽と芙蓉の対決です。 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年9号 p96 (2巻 p70)小野ハルカ 紅羽が出した条件がコレです。 芙蓉が勝った場合については語ってますが、負けた場合については言及してません。 芙蓉は勝負に負けて、クラブを辞めると言い放つのですが、 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年10号 p28 (2巻 p97) 小野ハルカ 紅羽に再選の提案を出されたことによってそれを撤回します。 恐らく松明の監督就任も追試を受ける形になるでしょう。 負けても正式な監督に就任するとなったら達成感が出ませんし、 監督を辞めたら漫画が終了するかサブタイトルを替える必要が出てきますからw そして、今度は引き分けや負けだと解任という条件が付くでしょう。 7-b) 監督復帰 最終的に松明は追試を受けて正式に監督を要請されるという事にはなるでしょうが、 その条件を受ける前に一つ枷があります。 これはひょっとしたら次回に描かれるのかもしれませんが、 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年26号 p172 小野ハルカ 松明が、恐らく責任を感じて部活に出なくなったこと。 まずは彼を引っ張りださなければなりません。 鍵となるキャラは松明に才能を見出された風花、あおい、芙蓉と、 最後にはもちろん紅羽となるでしょう。 部活に姿を見せなくなる...といったシーンは以前芙蓉にもあったので、 直接的に引っ張り出して来るのは恐らく芙蓉だと思われます。 その際、風花やあおいは戻ってくるように頼むでしょう。 『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年9号 p91 (2巻 p65) 小野ハルカ しかし、紅羽は「去る者は追わない主義」な上に、桜花咲耶のことが枷となり、 最初は非協力的な振る舞いをすると思われます。 これらの枷を、誰がどう外すのか。

その上、「関係の履歴からシーンの羅列へ」という動きは、
RPG的な要素...共感できる主人公がだんだん強くなっていく...
の重要度が下がることを意味します。
さらに言うと、作品に対する読者の「関係の履歴」も希薄になる訳ですから、対応が刹那的になり、
少しでも我慢を強いられたり面白くないシーンが続くと、読者は見切ってしまいます。
The Structure of "Ice Hockey Princess" #2

試合に負けることは、読者に我慢を強いる展開です。
恐らく、短期的に見ればアンケートも少し下がっているだろうと予想します。
その上、過去シーンも挟まれるでしょうから、さらに下がるおそれもあります。
(某作家さん曰く、概ね過去回はアンケートが下がる傾向にあるらしいです)
長期的な視野に立てば、ずっと勝ちっぱなしというのはドラマ性に欠けるので、
どこかで負ける必要があるのですが、ここからの展開でどう盛り返していくのか。
『氷球姫』4巻前半収録分は、この漫画が連載を継続出来るか否かのターニングポイントだと考えています。


枷を誰がどう外すのかは正直読めませんが、
個人的には紅羽の祖父がどう動くのかといった辺りや、
他のキャラが何をすべきかを考えて行動する展開に期待します。
今までは、松明が何をすべきかを明示する展開ばかりでしたし。
『氷の国の王子様』 3巻 p55 小野ハルカ

『氷の国の王子様』でもアーサーが何をすべきかを明示する展開ばかりでしたが、
最後の方ではサキが自主的に考えて行動することで成長を表現していました。
まだこういった行動をさせるには少し早いのかもしれませんけども。


紅羽の祖父は、指導される立場ではありませんし、
松明のようなポテンシャルを見抜く能力があれば面白いと思うんですけどね。


8) 作者の修正能力
今までは『氷球姫』の構造やキャラのポテンシャルにフォーカスを当てましたが、
最後に小野ハルカ先生のポテンシャルについて考えてみます。
『氷の国の王子様』から『氷球姫』になってどう変わったかは既に述べましたが、
ここでは『氷球姫』が単行本化された時にどれだけ変わったのかについて述べます。


第14話が掲載された時点で、小学館の『氷球姫』2巻のページに第17話までのタイトルが公開されていた
事から、その時点で少なくとも原稿は3週以上前倒しで進行していた事になります。
ちなみに、『氷球姫』3巻の発売日は7/18で、来週の第27話までが掲載予定です。
(つまり、来週の第27話のタイトルが分かりますw)
現在はどれほど前倒しされてるのかは分かりませんが、1巻の時点では余裕があったのか、
単行本化の際に描き換えられているシーンが多いです。
ちなみに、2巻で描き換えられたのは、私が確認できた所ではこの3シーン。
『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年6号 p134 小野ハルカ

連載時には「誰が」を2回言ってるミスがありましたが、単行本では修正されてます。
また、これはミスではありませんが、同じ第8話p18最後のコマ。
単行本では風花が描かれてますが、連載時には芙蓉でした。
そしてもうひとつミスの修正。
『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年10号 p22 小野ハルカ

一番下の数字が6になっていますが、単行本では8になっていました。
某スレや某ブログで指摘があったように、このトレーニングをする際には6と9の数字は使わないらしいです。
ちょっと考えれば分かりますが、数字を逆さにすればどっちが6でどっちが9か判別し辛いからでしょう。


このように、2巻修正分は概ねミスの訂正だったのですが、1巻は大幅に描き直しています。
まず芙蓉の所で触れたシーンがひとつ。
他のシーンは第5〜7話に集中していて、構成まで変わっています。
『氷球姫』 週刊少年サンデー 2013年1号 p231 小野ハルカ

連載時には鳥ノ山高校を紹介するシーンで、雀田米の弟が出ているシーンが2pありましたが、
単行本では全カット。
個人的にパロディとしては面白いと思わなくもないですが、雰囲気ぶち壊してるのは確かですしね...


全シーン引用すると20pくらいになるの掻い摘んで引用すると、
『氷球姫』 週刊少年サンデー 2013年1号 p237 小野ハルカ

例えば連載時にはこうだったシーンが、
『氷球姫』 1巻 p146 小野ハルカ

構成を微妙に変え、ツッコミだけを別のシーンにすることによってコメディ要素をきちんと出したり、
『氷球姫』 週刊少年サンデー 2013年2・3合併号 p282 小野ハルカ

連載時には右半分使っていたコマを単行本では見開きページにして迫力を出したりと、
修正されたシーンが尽く良くなっているんですよね。
「修正したんだから当たり前じゃん」と思われるかもしれませんが、
『氷の国の王子様』では必ずしも修正によって改善されたとは言えませんでした。あくまで個人的な印象ですが。


個人的に『氷球姫』1巻で一番素晴らしい修正だと感じたシーンはココ。
『氷球姫』 週刊少年サンデー 2013年4・5合併号 p282 小野ハルカ

風花がインターセプトした、鳥ノ山戦最大の見せ場です。連載時はこうなってましたが、
『氷球姫』 1巻 p186-187 小野ハルカ

#2でも引用したように、単行本ではこのように修正されました。
ぱっと見でも迫力が断然違うのではないでしょうか。


迫力が出た最大の理由は見開きになった事ですが、個人的には他の違いに注目しています。
ひとつめは集中線を目立たなくしたこと。
通常集中線を増やすか密度を上げればスピード感が増し、迫力が出るのですが、
このシーンではあえて目立たなくしています。
それによって、コマに描かれている時間を短縮し、却ってスピード感が増す。

マッハ!!!!!!!!』では早回しを禁止する代わりに、スロー再生することによって却ってスピード感を出す、
といった演出を頻繁に使っていましたが、それと類似してます。


ふたつめは、見下ろす目線から見上げる目線に。
『ハルク』では見下ろす目線が多く、ハルクの迫力がイマイチ伝わっていなかったのですが、

インクレディブル・ハルク』では見上げる目線が多く、案外小さいハルクでも迫力を出せていました。
見比べてみるとその違いはよく分かるはずです。


このように修正ポイントが理に適っているので、比較すると作者がどれだけ成長したのかが窺い知れます。
松明のところでも触れましたが、作者も成長していると感じられるのが
この漫画の魅力の一つでもあるのではないかと。
以前ベイビーステップ#84勝木光先生がどう成長したか示した事がありましたが、
ベイビーステップ』5巻 p93 勝木光

ベイビーステップ週刊少年マガジン2009年35号 p226-227 勝木光

小野ハルカ先生も試合シーンの迫力がウリの一つとなる作家さんになって欲しいものです。


9) 蛇足
最後に蛇足。個人的に『氷球姫』で問題だと感じたシーン。ここは修正して欲しかった。
『氷球姫』 週刊少年サンデー 2014年8号 p292 (2巻 p68) 小野ハルカ

以前『放課後さいころ倶楽部』でも背景のミスを指摘しましたが、
あちらは単なるケアレスミスで、こちらは明らかな間違い。次元が違います。


まずはパース。消失点を近くに取り過ぎているため、特に天井が長方形に見えなくなっています。
パースより問題なのがスケールで、リンクがあまりにも小さすぎます。
手前にある機械は恐らく自動販売機だと思われますが、高さは1.83m。
幅は機種によって異なりますが、高さとの比率を考えると1.37mもしくは1.61mサイズのものでしょう。
奥にある教室は、一般的に9m*7m*3mと決まっています。
そしてリンクの広さは、1巻巻末にもあるように61〜56m*30〜26m。
建物はリンクをすっぽり覆っているので、それより大きくなります。
仮に建物の大きさをリンクの最小に等しいと仮定しても、
幅は自動販売機19機分、教室2.9室分必要になってきます。


ここからは想像ですが、線の引き方がリンクと校舎では違っているので、校舎を誰かが描いた後に、
別の人が「この中にリンク描いて」と無茶振りされたために、こんな事になったのだと思われます。
パースを校舎と合わせた結果、建物のパースが狂い、
無理矢理空いたスペースに入れたために、スケールが揃わない。
何にせよ、同じことをやっていれば同じミスを繰り返すタイプの間違いなので、
原因を究明して改善し、今後に活かしてもらいたいです。