The Structure of "Prince of Ice Kingdom"

今回は半年以上前に終了した漫画について。
なぜ今更この漫画を取り上げるのかというと、
『氷球姫』 週刊少年サンデー 2013年49号 p15 小野ハルカ

現在サンデー本誌で連載中『氷球姫 × 常盤木監督の過剰な愛情』の
プロトタイプとなった漫画だからです。


『氷の国の王子様』はサンデー超がサンデーSにリニューアルされた時に連載開始しましたが、
最初から最後まで私が◎評価付けていたくらい、個人的には素晴らしい漫画だと思っています。
『氷の国の王子様』のプロトタイプ読切『プリンス オブ アイス』も◎評価してましたが。


『氷球姫』が面白いと思っていて、その理由が「紅羽たん萌え」ではない人ならば、
『氷の国の王子様』も十分楽しめる筈です。
『氷の国の王子様』 少年サンデーS 2012年5月号 p351 (1巻 p101) 小野ハルカ

一応女の子もソコソコ出てきますが、
基本的にはアーサー総受けな漫画なので(違
どちらかと言うと腐女子向けかもしれません。
連載終了した作品が増刷されることは皆無に近いので、買うなら今のうちですよ!!1
まぁ最終手段として小学館のソク読みという電子書籍で読むという手がありますけども。
ちなみに、このリンク先↑のためし読みから1話目の最終p以外を読むことができますし
あらすじ的なものに関しては『そのスピードで』さんが丁寧に書かれてますので、
そちらを参考に。


この他にも推していた『湯神くんには友達がいない』『今際の国のアリス』が本誌昇格を果たしましたし、
個人的に推してた作品・作家さんが本誌に昇格するってのは本当に嬉しいもんです。
後は富士昴先生とごとう隼平先生が昇格して、
星野倖一郎先生、クリスタルな洋介先生、菅原健二先生が本誌復帰すれば言うこと無しなんですが。
(欲張りすぎ)


それはともかく。
『氷の国の王子様』がどういった風に個人的な好みとマッチしているのかを適当に書いていこうかと。
で、1巻出た辺りに『氷球姫』がそこからどう変わったかを記事に出来たらいいなぁと考えています。


1) 鶏鳴狗盗
個人的にはキャラの個性を遺憾なく発揮する作品が大好きで、
この手の作品のルーツとなるのは恐らく『史記孟嘗君列伝』の「鶏鳴狗盗」になるのだと思います。
...という事をこの間『達人伝』を読んで気づいたのですがw
『達人伝』 3巻 p44 王欣太 双葉社

ただ、「鶏鳴狗盗」の意味は

とりえのなさそうに見える人物でも、何か1つぐらいは秀でた特技を持っているものだ
つまらない能力しかないとるに足らない人物

この2つで、単なる「鶏鳴狗盗」では個人的な好みとは微妙にズレます。
「鶏鳴狗盗」は恐らく支那の「天命」という思想から導かれるものであり、
天の代理人たる帝や王がこれらの人材をどう配財するか?という教えであって、
見方を変えれば、生まれながらに人は付くべき立場が決まってるという考え方...
すなわち、カースト制度のような身分制度に直結する思想なんですよね。
私は「いわゆるリベラル派」の人達とは一線を画しますが、
こういった権威主義的な思想に否定的な程度にはリベラルな思考です。
(そもそもコミュニタリストを自称してる段階でリベラリストなんですが)


2) ポテンシャル
ではどういった方向性で個性を発揮すれば個人的な好みになるのか。
『氷の国の王子様』 少年サンデーS 2012年4月号 p594 (1巻 p80) 小野ハルカ

生まれながら立場が決まってないことが条件になりますから、
当然ながらキャラがその役割を選択するという過程が必要になります。
そして、生まれながらに立場が決まってる訳ではないのですから、
『氷の国の王子様』 1巻 p81 小野ハルカ

立場を全うするために努力をする必要もある訳です。
この結果としてキャラのポテンシャルが発揮される
さらには、各キャラが立場・役割を確保できるように、キャラの多様性が担保されてる。


このテのスポーツ漫画として、代表的なのは『アイシールド21』だと考えています。

アイシールド21 1 (ジャンプコミックス)

アイシールド21 1 (ジャンプコミックス)

この漫画もキャラの個性がハッキリとしていて、
各々のキャラが欠点を持ちつつも、いかに長所を伸ばすか?というのが根底にありました。
最近だと『ハイキュー!!』が割とこの系統でしょうか。
まぁそれを言い出すと『おお振り』もこの系統と言えるんでしょうけども。


こういった漫画が好きだからこそ、私はサンデーSやゲッサンの記事を書いてるのかもしれませんし、
サンデーSで実力を蓄えた作家さんが本誌へと昇格するのを見ると嬉しいと感じるのでしょう。
そして、富士昴先生やごとう隼平先生が本誌昇格してない現状にやきもきしているとw
担当が変わらないと、ちょっと色々厳しいかなぁとか思ったり思わなかったりしてますが。
『動物がお医者さん!?』 週刊少年サンデースーパー増刊2011年6月号 p145(1巻 p133) 富士昴

特に富士昴先生は、多様性をちゃんとテーマに採り入れてただけにねー。


何にせよ、こういった「いかにポテンシャルを発揮するか?」といった辺りで
意外性や達成感を出してる点は『氷球姫』にもしっかり受け継がれています。


3) コメディ
小野ハルカ先生、コメディも意外と面白いです。
『氷の国の王子様』 サンデーS 2012年12月号 p698 (2巻 p140) 小野ハルカ

『氷の国の王子様』ではほぼアーサーの偉そうなキャラを活かしたコメディだけでしたが、
これがきっちり緩急としてハマってました。
『氷球姫』でもこの辺りは受け継がれているのですが、『氷の国の王子様』は短期連載だったので、
キャラに依存したコメディのパターンが一つで十分だったとも言えそうです。


4) ロジック

『未来のフットボール』が良くて『T.R.A.P』が微妙だったのと同様、
読切・短編の場合は問題ないんですけれども、スポーツやバトルなら魔球や魔法成分を混ぜても
ロジカルな説明が必要になってくるので、ロジカルな描写を強化するか、ロジカルな記述なしでも成り立つような
何かしらの工夫が必要になってくるでしょう。

読切『プリンス オブ アイス』の記事でこう書きましたが、
『氷の国の王子様』は魔球に多少のロジカルな説明を加えていました。
『氷の国の王子様』 1巻 p142 小野ハルカ

個人的には魔球漫画は魔球漫画で楽しめるんですが、
恐らく『氷の国の王子様』が魔球漫画になったのは、当時はまだアイスホッケーの戦術に
それほど詳しくなかったからだと考えています。

一応アイスホッケーを題材に取りつつも、かなりファンタジーの入った内容だったので、ホッケーをご存知の方はご不満に感じられたかもしれません。もしまたホッケーを扱った作品を作ることになった場合は、もう少しリアルな魅力をお伝えできたらなあと思っております。
『氷の国の王子様』3巻 p164 小野ハルカ

3巻のオマケにこう書いていますし。
というか、「もしまたホッケーを扱った作品を作ることになった場合には」って、
これを書いてる段階で既にこの作品のブラッシュアップで昇格が内定してたって事なんでしょうかね?
そこまで読みきれてなかったなぁ...
何にせよ、『氷球姫』では魔球は封印して (必殺技の名前くらいは付けるかもしれませんが)
戦術的な駆け引きの面白さを少しでも出してくれれば有難いですね。
あくまでキャラがメインで、ロジックはキャラを立てる為の要素である必要はあるでしょうけども。


5) キャラ
『氷の国の王子様』はキャラの個性は結構あったものの、
若干問題点がありました。


まぁ一番の理由は、主人公のアーサーが総受け(違


アーサーのキャラが素晴らしくて、彼以外にファンが付きそうに無い所でした。
『氷の国の王子様』 1巻 p112 小野ハルカ

イケメンで上手くてたまに面白いことも言う。
このブログで言うところの「コスプレ型」主人公 (こうなりたいと読者に思わせる) です。


で、この漫画。実はもう1人主人公がいて。
『氷の国の王子様』 少年サンデーS 2012年4月号 p594 (1巻 p80) 小野ハルカ

上にも貼った画像ですが、城山サキが「着せ替え型」主人公 (こうしたいと読者に思わせる) です。
読者に感情移入を促すためのプレーンなキャラクターですが、
「空間把握能力」という、自分が気づいてないだけでひょっとしたら俺も持ってるかも?
と思わせる特殊能力であるが故に、感情移入を阻害しない工夫がなされています。
ベイビーステップ』の主人公、エーチャンの「動体視力が良い」という特殊能力に似てますね。
この漫画にしかない独特の構造って訳ではないですけども、
主人公2人制でアーサーのキャラがいい意味で立ち過ぎてる問題点をうまく解消できてると言えるでしょう。
主人公が二人いる作品で、今パッと思いつくのは『巌窟王』です。
アレも伯爵のキャラが立ちまくってましたし。
実のところ、サンデーの漫画で主人公2人制の作品を『氷球姫』以外にもう一つ思いつくのですが、
その辺りは『氷球姫』の記事で書ければなぁと。


で、他のキャラも一応立ってはいるのですが、このキャラにファンが付くのかな?
と考えると少々微妙でした。
例えば、2012年4月号の記事 (4話) で

分析能力という点でアーサーと監督が被ってるのが若干気になります。
せめて違った視点だったりすればより良かったのですが。

というのがありました。
『氷の国の王子様』 1巻 p139 小野ハルカ

結果的にはこの後分析能力がほんのちょっと発揮されるシーンが2箇所だけで、
ほぼ被らずに済んだんですがねw
全部アーサーが良い所を持っていくので、必然的に他のキャラの影が薄くなるんですよ。


それと、サンデーの漫画なので何だかんだ言って女の子が可愛いかどうかが人気を左右する訳ですが、
その女の子を出す為に中学アイスホッケーなのに男女混合だったりする辺りもファンタジーでした。
この辺りがリアル路線を捨ててファンタジーな魔球路線の漫画になった原因があるのかもしれません。
で、ちょくちょく出てくる女子キャラの中にはそこそこ立ってるキャラもいるんですが、
ハナ以外は1〜2話出るくらいでやはり影が薄いという...
それが『氷球姫』ではどう変わったかは言わずもがなでしょうw


何にせよ、『氷の国の王子様』は単独でもかなり楽しめる漫画ですが、
そこから『氷球姫』を連載するにあたって、どこをどう改善していったか?
という視点から読むと、さらに『氷球姫』が面白くなるかもしれません。
というか、私はそういう視点で楽しんでいますねw