LASBOSS×HERO 1巻

LASBOSS×HERO 1 (少年サンデーコミックス)

LASBOSS×HERO 1 (少年サンデーコミックス)

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連載担当 / 鈴木翼


何度か書いてますが、小学館以外では「くずしろ」名義。詳しくはwikiで。
この間『LASBOSS×HERO』の宣伝をニコ生でやってたんですが、
作者が女性である事を知らない人が多かったのが意外でした。
知識として知らなくても、だいたい漫画読めば女性だと分かる気がするんですけども...
(あ、富士昴先生は例外です。アレは本気で驚いた。会ってみると結構綺麗な人なんですが。)
で、作者さえもちょくちょく間違えてますが、タイトルは ×LASSBOSS ○LASBOSSです。


サンデーSで連載してる作品ですが、クラブサンデーでも公開中。
『LASBOSS×HERO』

1話目と、サンデーSより1話分遅れた3話分が公開されてます。
(4/1段階だと、クラサンで公開されてるのは1,3,4,5話で、3/25発売のサンデーSには6話が掲載。)
クラサンで読んで続きが気になったら、発売中のサンデーSを買うとすぐ続きが読める仕様です。
釣られる人がどれだけいるかは不明ですが、非常に良いスケジューリングだと思いますね。


どういう漫画かというと、カバーにも似たような事が書いてありますが、
『LASBOSS×HERO』 1巻 p57 葛城一

あらすじとしてはこんな感じ。
バクマン。』をはじめとして、漫画家を扱ったメタ漫画が最近増えてきてますが、
作者が漫画の中に入る漫画はあまりないんじゃないでしょうか。探せばあるんでしょうけども。


『LASBOSS×HERO』 1巻 p164 葛城一

もう一つの特徴として、作家さん自身の性格もそうですが、内容が基本的にネガティブな事です。
作者は略称を『ラスボス』としてますが、内容的には『メタ×ネガ』な漫画です。


で、個人的にこの作品のドコが気に入ってるかというと、基本的にサンデーSの記事で既に書いてますが、
ひとつめはメタ漫画なら当然出てくるメタネタ。
『LASBOSS×HERO』 1巻 p97 葛城一

個人的にはメタネタ好きなので。好みは分かれるでしょうけど。
エロも交えたりと一工夫してるのも好感が持てます。


ふたつめは基本ネガティブなところ。
『LASBOSS×HERO』 1巻 p20 葛城一

私も基本ネガティブなので、こういう自虐的なネタは好きですね。


『LASBOSS×HERO』 1巻 p89 葛城一

みっつめはメタな構造をきっちり使えてること。
当たり前と言えば当たり前ですが、メタ漫画だと主人公を動かしやすいんですよね。

そこでまた、桂馬の主人公パワー炸裂。設定を色々見せておいて、「関係ない」と言ってしまう。この辺りの設定は今は考えなくてもいい、と。考えないといけない文脈を明言してしまう訳で。ボクと担当さんの間で桂馬は「打ち合わせが見えてる男」と言う異名を取っていますが、桂馬は中にいながら物語の読まれ方も制御しちゃう人なので、作者的にはすごく助かるw 「バトルはやらない」って言ってくれるし。そのおかげで、あれだけ意味ありげなシーンが見えた直後に歩美に戻ってこられる。
::HoneyDipped:: 1/4:FLAG171 「For a Few Lovers More」

神のみぞ知るセカイ』もメタな構造のある漫画ですが、桂馬でさえ「打ち合わせが見えてる男」です。
『ラスボス』の主人公・相楽政宗の場合は「打ち合わせをしてきた男」でしょうか。
『LASBOSS×HERO』 1巻 p80 葛城一

非メタ作品ならば、どういう展開にすると漫画が盛り上がるかを考えた後に、
キャラをどう導いていくか、キャラの性格等を踏まえた上で考える必要がありますが、
そこをメタな構造にすると、作者がやりたい事=キャラがやりたい事なので、ブレないんですよね。
エロを出したい時にエロを出し、バトルが欲しい時にはバトルを、
ブコメが欲しければ主人公にそう思わせるだけです。


この編集者と作者の掛け合いにリアリティがあるところもいいですね。
葛城先生本人が担当さんにこんな事言われたかどうかはまた別の話ですが、
作家さんなら恐らく共感できるネタでしょうし、
作家さんがこのような事を愚痴ってるつぶやきは何度か見たことがありますし、
これを「あるある」ネタだと思わない読者にも、興味深い描写になるでしょう。


で、メタ構造とネガティブが組み合わさることによって
『LASBOSS×HERO』 1巻 p39 葛城一

こういう演出が出来るんですよね。個人的にはこのシーン見て「この漫画はイケる」と思いました。


『ラスボス』もそうですが、少なくとも葛城一名義の作品のほとんどがケレン味溢れる作品でした。
(こう書いてるのは、「くずしろ」名義の作品を読んでないからですが、たぶんアッチもそうでしょう)
『セーラー服を纏った教祖様』 週刊少年サンデー2012年10号 p299 葛城一

例えば本誌に載ったこの読切。


『ラスボス』1話の記事でも引用しましたが、連載直前に載ったこの読切、ケレン味を封じた作風でした。
高校野球の途中ですが』 週刊少年サンデー2012年42号 p208 葛城一

こういうクセのある漫画を描いていると「もっとインパクトを!」となりがちで、
読者と距離が離れてしまう恐れがあるので、こういったデトックス作品を描くことには意味があると思います。
出来れば作品の中でそういった緩急を付けられるようになるといいんですが。



くずしろ/葛城一
この前の高校野球読切は4コマの時との差別化図りたくてベタになってもいつものアレな部分極力抜いて描いてみたデトックス漫画だったけど、多分あんな感じの漫画は向こう3年は描かない気がする…と進行中の漫画とストックのネタを眺めて思う。
link
個人的にはケレン味で押し通しても全然OK、ベタな描写は別に要らない派なんですけども、 ある程度人気を取ろうとするなら、こういう演出は必要になってくると思います。 正に作者が「やらなきゃいけない」事です。主人公がベタなネタをネガティブに語ることによって、 やらなきゃいけないベタなネタをケレン味ある作品の中で上手く出せる。 ベタが好きな読者にも作品が受け入れられる構造になっていると思います。 ここが一番素晴らしい点じゃないかと。 1話辺りの構成も中々良くて、 計画を立てる→実行する→気が変わる (or ハプニング) →対処する という風な起承転結が割ときっちり決まってます。言い換えると「PDCAサイクル」。 そろそろキャラ描写をより深めるためにも、1話完結でのこの構造は崩す必要はあるでしょう。 とまぁ基本的にはベタ褒めな作品ですが、ほんのちょっぴり不満な点も。 『LASBOSS×HERO』 サンデーS 2013年4月号 p477 葛城一 これは単行本未掲載のメタ×ネガ×ベタなシーンで、 微妙なシーンでも言い逃れできるというのは強みっちゃ強みですが、 ベタな演出は何故ベタになるかというと、それだけウケるからこそ何度も使われベタになる訳で、 求められてるのはあくまで面白いベタであって、単に微妙だったり、天丼やお約束になっている訳でもない、 マンネリを感じさせるシーンではないんですよね。 確かに主人公の発想の貧困さを演出する効果はあるでしょうけども... 以前にも書きましたが、ベタネタがネガられている点も心配です。 単純にベタネタが出てくるだけで喜ぶ読者もいるでしょうけど、 中にはベタネタがネガられて反感買う人もいそうです。 この辺りはネタの質で区別すべきだと個人的には思います。 「三歩下がって振り返り」のようなあからさまなネタなら茶番だと言わせても反感買いにくいでしょうけど、 それほどあからさまで無ければネガる程度を多少抑えた方がいいのかもしれません。 もしくは、たまに素晴らしいベタネタを用意して、その時はネガらない。 この辺りの判断はグレーゾーンに関わるので、どこで境界線を引くかははっきりと決められません。 同様に、主人公の漫画が打ち切り寸前という設定からか、キャラの動きが抑制的というか、 キャラが自発的に動いてない辺りが若干不安だったんですが、 『LASBOSS×HERO』 1巻 p39 葛城一 4話辺りからはキャラの立場の違いが描かれるようになったおかげか、 割とキャラが動くようになってます。この点は解消されたと見ていいでしょう。 最後に。個人的にはほとんど問題視してないんですが。 『LASBOSS×HERO』 1巻 p165 葛城一 エロについて。

照れで萌えを惹起し、補強するのがしぐさとシチュエーションとチラリズム接触プレイだと思うのですが、
ココがどうも弱いんじゃないかと。

以前ゲッサンで連載中『時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。』をこのように批判した記事を書きましたが、
『ラスボス』に関してこの点は問題ないと思います。
くずしろ先生は18禁の同人か何かを出す予定らしいですが、個人的にはその本で抜けるでしょう (おい)。
ただ、確かにエロくは描けてない気がします。


逆に、『時坂さん』にはあって『ラスボス』にはないもの。この辺りは『高校野球の途中ですが』 の記事で

動きのある絵は苦手っぽい

と批判したことに通じるのですが、体の「しなり」と「ひねり」がほとんど無いんですよね。
エロが微妙なことより、その原因であるこの2つの要素の無さの方がよっぽど問題だと考えます。
背中を反らせてるシーンは多少あるんですが、捻ってるのはほぼ首。
腰を捻ってるのは全体を通してもp41, p97, p105の3箇所くらいじゃないでしょうか。
『時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。』 ゲッサン2012年11月号 p492 田中ほさな

エロさとはすなわち、いかに曲線を美しく描くかであって、直立不動がエロと最も遠いポーズだと仮定すると、
そこからいかに遠ざけるかがエロい絵を描くコツなのかもしれません。
間接を曲げて描くことはしてるんですけども。
「しなり」「ひねり」が無いからこそ、投げる、打つといった動きに硬さが見られて、
高校野球の途中ですが』に関して動きのある絵は苦手っぽいという印象になったのかもしれません。
この辺りは読切が掲載された本誌を処分たので確認は取れないのですけども、
少なくとも『ラスボス』にも似たような傾向は見てとれます。絵に関してはここが改善点だと思います。
エロに限定すれば、科 (しな) を作ることを意識した方がいいのかも。