時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。 #17

内容的に低迷してたので、何とか巻き返して欲しいと以前単独で記事を書いたんですが...
持ち直したというレベル以上の内容だったんじゃないかと。
ただ、改善された原因は自分が指摘し損ねた所もあるので、
先の記事はちょっと失敗したなぁと反省。


改善された原因のひとつは、一話完結を止めたこと。



田中ほさな
打ち合わせなう。毎回そうだけど、反・エコねたに悩む(^_^;)大体ご想像の通り、反・エコねたというのはなかなか難しい。というのは、「このエコは実は間違っていて、エコになってないですよ」的な誤情報ねたが、今となっては使えないからだ(続く)
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作者自身が吐露されてるように、明らかにこの作品、反・エコねたがボトルネックになってますから、 そこをいかに解消するか?が鍵となります。 記事では3つ解決方法を提示しましたが、 (二つ目は「もっと過激に」と言ってるだけなので、あまり解決方法にはなってませんが) 最もシンプルな解決方法を提示するのを忘れてました。

4話構成の度にキャラ作っていくようなローテーションならどうしてもキャラのネタ切れを起こしますし、
ひとつの攻略の尺を伸ばすこと自体には賛成です。

『神セカ』 FLAG.85の記事や、これ以前にも度々書いてることですが、
ボトルネックとなる要素の消費をなるべく抑えること...
『神セカ』なら1キャラあたり、『時坂さん』ならエコねた1つあたりの話数を伸ばすことによって
ボトルネック緩和をする。
要するに、引き伸ばしが最もシンプルな解決方法です。
『神セカ』の場合には厳密に言うとキャラの要素... 顔パターンかココロノスキマという事になるのですけども。


引き伸ばしという言葉を使うとあまり良い印象を持てないかもしれませんが、
テーマはきちんと中心に据えつつ、キャラクターやコメディの要素を増やそうという事でもあるので、
エンターテインメント的にもこれが最善策だと思います。
エコねたの意外性や面白さで引っ張るより、キャラで引っ張る方が人気も出るはずですし。


という事で、もう一つの原因はキャラ描写。
元々キャラ描写に問題があった訳ではないのですけども。
『時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。』 ゲッサン2013年3月号 p555 田中ほさな

この漫画も難しいところがありますから、担当の村上さんが編集長の市原さんに似たような事でも
言われたんでしょうかw
このセリフにもあるような、立場や役割に多様性が出たが故の面白さが出てきてると思います。
...結局のところ、「キャラを増やす」ことが解決策だったのかもしれません。


渡辺会長と夢原副会長とのやりとりなんかもそうですが、
『時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。』 ゲッサン2013年3月号 p565 田中ほさな

このシーンもそうですね。
単に役割分担させて、それを承諾するだけではなく、みんな一言二言返してるのが非常にいいですね。
そこで各々のキャラクターを出してますし、細かい所は分かってない辺りで役割分担する必要があることを示しています。
だからこそ渡辺会長はあくまで仕切り役で、手段に関しては各自に任せるという風になります。
逆に夢野会長が独裁的で、何でもかんでも自分が決めてると対照的になってさらに面白いんですけども。


『時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。』 ゲッサン2013年3月号 p557 田中ほさな

渡辺会長のもう一ついいシーン。
ロジックも筋が通ってますし、どうやって確保するかを読者が考える間があるのがいいです。
しかも一旦吸殻というアイテムを見せ、想像する足場を作ってる辺りが素晴らしい。
さらにその合間に夢原副会長の修羅場シーンを挿入して一旦リセットしてるのもね...
その上修羅場シーンが後の伏線にもなってるという。こんな展開なかなかやれんですよ。


で、その夢原副会長ですが。
『時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。』 ゲッサン2013年3月号 p574 田中ほさな

個人的に今回一番気に入ったセリフです。

改変など決して許さず、疑いをさしはさまない極度の偏見をもって−−ね。

前回の記事で

「いきすぎた環境保護」が具体的に何を指すのか分からないので何とも言えませんが
(明示する必要も無いですけど)、
それに歯止めを掛けるための手段は環境破壊をすることではなく、
いかに多角的な視点から捉えるかを主人公の宗也に学ばせることだと思うんですよね。



田中ほさな
悪を生み出す根本には、必ず想像力の欠如や他者への不寛容さがあり、その主たる温床は貧しさです。鑑定書のエピソードは番組を終える上で用意された救いでしょうが、現実には終わりはありません。…今日は明るくなるまで眠れそうにないです。 RT @ohcamay
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想像力の欠如や他者への不寛容と対抗できるのは、客観的なものの見方... どれだけいろんな見方があるのかを知ることでしょうし。

客観的なものの見方を推奨したのに、極度の偏見云々のセリフが気に入るってのは矛盾するじゃないか?
と思われるかもしれません。そんな事はないです。


まずは対立軸として。
何が正しいかを示す最も単純な方法は、正反対の考えが間違ってることを示すことです。
つまり、想像力が欠如した状態で突っ走って失敗することを描けば、多様性大事ということを示せます。
こういう狙いがあるのかなーと思ってほさな先生にRe投げてみたんですが、



田中ほさな
おおお、ゲッサン今月号出てましたか。最高だなんて…嬉しいです!ありがとうございます。使命感に基づいた偏見は、時として大切ですよね。 RT @GRGR_ フラゲしました。最高でした。個人的にセリフでは22p4コマ目が素晴らしいなと。 http://bit.ly/Y1bKh0
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こういう返答が。 前回引用したつぶやきという先入観があったので、こういう考えであのセリフを入れたとは 思ってませんでした。 で、この考え方もまた素晴らしいんですよね。 すなわち、多様性の源泉としての独断。 「またその本から引用すんのかよ」と言われそうですが。

自由科学の特色は、独断や偏見を片付けてしまうということにあるのではなく、それらをある方向に導いていくことにある。つまり独断と独断を、偏見と偏見を戦わせることによって、それらを社会にとって生産的なものにするのである。科学者は偏見なしとしないが、科学は偏見のないままでいられる。哲学者にして科学者でもあるデーヴィッド・L・ハルはかつて書いた。「科学の長所の一つは、科学者たちに偏見のないことを要求するのではなく、ただいろんな科学者がいろんな偏見をもつことを要求することにある。」
表現の自由を脅すもの』 p110 ジョナサン・ローチ著 飯坂良明訳 角川選書
(※引用注:「」内は『過程としての科学』シカゴ大学出版 1988年 p22 からの引用)

表現の自由を脅すもの (角川選書)

表現の自由を脅すもの (角川選書)

夢原副会長に迷いが無いようにこういったセリフを吐かせたのかもしれませんが、
独断や偏見こそが新しいものの見方、見過ごされていた正しさを開拓する原料になるんですよね。
そして、夢原副会長の独断と渡辺会長の独断とが戦うという展開になっているんですよ。
これこそが、まさに「科学」です。
「科学」が描写されてるから素晴らしいという事も無くはないですが、

逆に言えば、漫画の中でどれがエコかを結論として出そうとするから容易ではないのであって、
結論が出ないという辺りも全て漫画の中に反映させてしまえばいいのです。
要するに、作品の中で「どの数字を取捨選択するかで意味合いが大きく変わってしまうこと」を示すのです。
これなら、hotな話題でも作品の中で取り上げることが出来るかもしれません。

これができるんですよね。
なので、エコねたというボトルネックを解消できる構造になるかもしれません。


さらに素晴らしいのがここ。
『時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。』 ゲッサン2013年3月号 p569 田中ほさな

まぁこの組織に丸々取り込まれるというのはちょっと違う気はしますし、そういう展開にはしないでしょうけど。

2012年11月号の記事でこう書きましたが、
組織と関わりを持ちつつ、どちらか一方に与する訳ではない点です。
これだと多角的なものの見方を持つ方向になってますし、
双方からの板ばさみといったラブコメ的にもオイシイ展開になりますし、
主人公が巻き込まれキャラでありつつ、主体的に動ける構造になってます。
この構造だと、主人公が巻き込まれキャラであるが故にご都合主義的な展開は回避できますし、
巻き込まれた後に主人公が主体的に行動することによって、カタルシスを描写し易くなります。
(最初から巻き込まれかつ主体的な構造は出来ていましたが。)


最後にこのシーン。
『時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。』 ゲッサン2013年3月号 p579 田中ほさな

これまたいいですねぇ。
フツーに解釈するとツンデレなのですが、いつでも宗也を傷つける可能性を孕んでる辺りが。


そしてその前のシーン。
『時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。』 ゲッサン2013年3月号 p579 田中ほさな

パロディとしてはよくあるパターンですが、 (元ネタはエリザベス1世でしょう)
『時坂さんは僕と地球に厳しすぎる。』 ゲッサン2013年1月号 p542 田中ほさな

以前出ていた渡辺会長と比較すると中々興味深いです。
果たして夢原副会長はこの点で渡辺会長とは違うのか、それとも期待する誰かの存在を隠しているのか。
恐らく意図的にやってるでしょうから、ホントよく考えてるなぁと感心します。


何にせよ、今回は構成的にみて最高のデキではないかと。
構造的な問題はほぼ解決したと見ていいので、後はキャラにファンを付けることができるかに掛かってると思います。
一応萌えシチュ的なものは振りまいてますので、どれだけ喰いついてくれる読者がいるかですねぇ...
前にも書きましたが、キャラの外見にも多様性が欲しいところ。
月音はフツーですが、他の3人巨乳キャラですしね。
それと、クセのあるキャラが大量投入されてきたので、
フツーキャラの月音の役割が今までより重要になってくると思います。共感キャラとして。


最後に予想を。今回のエコねたは「風力」とみます。