湯神くんには友達がいない

湯神くんには友達がいない (1) (少年サンデーコミックス)

湯神くんには友達がいない (1) (少年サンデーコミックス)

まんがカレッジ2008年3・4月期に『こなた彼方の帚星』で入選 (福岡県・25歳)
その他の作品はクラサン参照
twitter Sakura_Jun

個人的には2010年の段階で最も期待してた5人の新人さんには入ってませんでしたが、
(ちなみに梧桐柾木・森園フミコ・黒田高祥狩野恵輔山地ひでのり)
それに準ずる期待はしてました。
読切ではギャグやコメディはそこそこ面白かったんですが、ハートフルな描写になると
どこか物足りなさを感じて、どうも歯車が噛み合わない印象だったんですが...
湯神くんには友達がいない』 1巻 裏表紙 佐倉準

転校生・綿貫ちひろ
隣の席の湯神くんは、
ちょっと…というか、凄く変わってます。
そんな湯神くんは、
いつだって一人を満喫しています。
ところが、周囲の人間は
湯神くんに振り回されて…
新感覚お一人様コメディー開幕です!!

何と言ってもこの漫画のウリは、発達障害の二歩手前くらいにいる主人公・湯神のキャラクターでしょう。
湯神くんには友達がいない』 1巻 p69 佐倉準

作者が (恐らく) 女性という事もあって、男性でも読めるタイプの少女漫画っぽい作品ですが、
少年漫画に限らず、漫画はキャラが命って事なんでしょうなぁ。
そして、そのキャラを活かすような構成にもなっています。


1) 性差

 どうやら男と女は生物学的に異なる生きものとして作られているらしく、社会が決まりきった役割を押しつけているわけではなさそうだ。つまり男女のちがいは、脳の回路のちがいなのである。脳の配線がちがうために、世界の認識も変わってくるし、価値観や優先順位も同じではなくなる。どちらが良い悪いではなく、ただちがうだけなのだ。
『話を聞かない男、地図が読めない女』 p25 Allan Pease, Barbara Pease著 藤井留美主婦の友社

文庫版 話を聞かない男、地図が読めない女

文庫版 話を聞かない男、地図が読めない女

以前にもこの本を紹介しましたが、『湯神』には男女の性差が明確に表現されています。
湯神くんには友達がいない少年サンデーS 2012年8月号 p530 (1巻 p48) 佐倉準

直接的に性差について言及されてるのはこのシーンくらいですが、
会話の目的がコミュニケーションではなく (友達とかそういうものを必要としない人間ですし)
問題を解決する為に必要な時以外はコミュニケーションを取ろうとせず、
興味のある話題にはやたらと饒舌になるといった辺り、男性の特徴をよく捉えてるんじゃないかと思います。
こういった精神的な性差を極端にすることによってコメディを成立させる。
歯車が噛み合うようになったのは、恐らくこの要素によるものじゃないかと。


2) ロールプレイ
主人公にコミュニケーション能力が欠如してるからかもしれませんが、
それだけにヒロイン含めサブキャラの役割が明確です。
湯神くんには友達がいない』 1巻 カバー裏 佐倉準

キャラ毎の視点の違いによって、湯神くんのキャラを多角的に表現する。
概ね「厄介なひと」か「いいひと」に分かれますが、これらの視点を交互に描写することによって
メリハリのあるコメディになってるんじゃないかと思います。


3) ミスリード
女性作家の描く漫画はどうしても元の意味での「やおい」な漫画に陥りがちです。
オチを付けるのにも必要になるのがミスリード
湯神くんには友達がいない』 1巻 p165 佐倉準

「ミスリード」は「ロールプレイ」にも関わってきますけれど、
(あるキャラの視点で描いた後、別のキャラ視点でギャップを描く)
これがあるから、男性にとっても (特に関西人) 読めるような作品になっていると思います。


4) 表情
この漫画の一番のウリは湯神くんのキャラクターですが、
その中で一番のウリとなると、裏表紙にもあるように、湯神くんのコロコロ変わる表情でしょう。
湯神くんには友達がいない』 1巻 p82-83 佐倉準

男女の表情の豊かさを性差の観点からみると、男性の方が表情が豊かなのは現実とは異なりますが、
女性の方が表情の変化に敏感なので、女性読者のファンが付きやすい男性キャラこそ
表情を重要視すべきだと以前から考えていました。 (blogやtwitterでは書いてませんが)
今でもかなりいい感じなのですが、例えば内心怒りながら笑顔を取り繕ってるとか、
2つの感情を入れた表情なんかを描写できればもっと良くなると思います。


何にせよ、「いかにもサンデー」なコメディ漫画として地味に良作ではないかと。