富士昴先生の次回作にご期待ください! #4

ということで最後になりました。
ぶっちゃけこの記事に関しては「富士先生が向いてそうな漫画」というよりは、
自分が読みたい漫画が、いくつかの要素で富士先生の経験を活かせそうだなと思っただけで、
富士先生にこういう漫画を描いて欲しい、という訳ではありません。


7-5) テーマの表現
テーマが「表現の自由」だとして、それをどう表現するのか。

テーマとは、表に出すものではなくて、その作品の中に溶けこますものなのです。これがテーマでございますといっているような作品は、本当の作品とは言えません。
シナリオの基礎技術 p47 新井一著 ダビット社

基本的に、私はこの考え方に賛成です。
作品を通じて作者の訴えたいことを読み取る
読者にテーマを押し付けるのではなく、感じ取ってもらうことで共感を促していく。
作品というのは本来かくあるべきではないかと。


ただ、個人的には、ダイレクトに表現するのは粋ではないものの、ある程度やむを得ないと感じています。

千田有紀 作品の読み方っていうのはひとつきりじゃなくて、とても多様なわけですよね。作者の立場で考えてみるなら、作者が用意した唯一の正当なテーマなんて、読者が汲み取りきれないじゃない。まあカラスヤさんも作家だから多々経験されていると思うんだけども(笑)。
カラヤスサトシ やたら深読みされた書評を見て、僕がびっくりしたことはあります(笑)。
千田有紀 だけど、そういう多様な読み方すべてが正当ではないというか、間違っているということじゃないよね。
(中略)
千田有紀 ポストモダン以前は「作者という神」が信じられていたからなんですよ。「読者は、正しい神さまが設定した正しい答えにたどり着かなければならないのだ」というように。
喪男社会学入門 #7「カルチュラル・スタディーズgood!アフタヌーン#07 p868 千田有紀×カラヤスサトシ 漫画:カラヤスサトシ

以前記事にして紹介しましたが、
「テーマは作品に溶けこますもの」という考えは、ポストモダン以前の「作者という神」
が存在することが前提になっている訳で、ポストモダン以降はその前提が崩れてしまいました。


ここで選択の余地が出てきます。
それでもテーマを作品に染みこませ、読み取ってくれる読者に向けてテーマを訴えるのか、
なるべく多くの読者に伝えられるよう、テーマに関してダイレクトな表現を使うのか。


個人的には、この2通りの折衷が理想ではないかと。
すなわち、テーマを作品に染みこませるようにストーリーを展開しつつ、
テーマに気づかない読者の為に、なるべくシンプルな表現でテーマを表に出す。
今まで気づいてなかった読者が、その表現を見た後に、最初から読み返してみると
最初から作品にテーマが染みこませられていることに気づく。
こうなるとテーマ自体が伏線の役割を果たしますし、一つの作品で二度美味しい事にもなるでしょう。
まぁそうそう上手くいかないのかもしれませんが...


例えば、ハリウッド版『スパイダーマン』には、こういうテーマ (キャッチコピー) がありました。

運命を受け入れろ
大いなる力には、大いなる責任が伴う
誰もが世界を変えられるわけじゃない

日本人にはピンと来ませんが、アメリカ人なら何割かはこのキャッチコピーで作品のテーマが伝わります。
これは「アメリカが取るべき立場」を表していて、アフガニスタン紛争 (対タリバン) を肯定する立場です。
政治学的に言うとハミルトニアン的立場でしょうか。
ハミルトニアンに関しては以前本垢の記事にしたので、そちらも参考に。
このキャッチコピーがダイレクトな表現か作品に染みこませているかは意見が分かれるかもしれませんが、
漫画でテーマを表現するのなら、まずは染みこませ、次に婉曲的な表現で、最後にダイレクトに、
といった感じで出していくのがベターなのかもしれません。


7-6) ストーリー
とまぁ抽象的に色々書いてきましたが、思いっきり足元を見ない感じになってきているので、
具体的にどういったストーリーにしていくかを考えてみます。


他誌ではそれほど重要でないかもしれませんが、ことサンデーにおいては重要な要素があります。



いちたか
むむむっ!ゲッサンに載ってるイエロウ先生の読切がめちゃめちゃ面白い(゜、゜) しかも、これぞサンデーってテーマ(頑張る動機が女の子!)だし
link
頑張る動機が女の子です。 現在本誌で連載されている漫画で言うと、 『ハヤテ』『おすもじっ!』『電波教師』『絶チル』『BUYUDEN』『ケンイチ』『神セカ』は、 ほぼこの動機で主人公が動きます。 『銀の匙』『明医』『RINNE』『ムシブギョー』『マギ』もかなりの割合でこの動機ですし、 『ささみさん』『姉ログ』や『出雲』は主人公が女性だったり、BL漫画なので当てはまりませんが、 異性(同性)が動機という点……「好きな人を助けたいから」という意味では同じと言っていいでしょう。

『動物がお医者さん!?』 2巻 p92 富士昴

お爺ちゃんでさえ「可愛い」と思わせる表情を描けてるのはまことに素晴らしいとは思うのですが、
読者がこのお爺ちゃんのファンに付くか?と言われればNOでしょう。
世の中には枯れ専というジャンルもあるのは確かですけども...
って、ヒロイン出してない云々は既に書きましたからこの辺で。

The Structure of "Can animals cure us!?" #3で若干触れましたが、
『動物がお医者さん!?』ではキャラにファンが付きにくい原因として、コレも多少あったんじゃないかと。
内気な内木さんや子役タレントの潮音、美星 (の父親) と、半分くらいは動機になっているのですが、
そこから先が問題で



PERO bot
やっぱり「モテたいっ」ですよ!可愛い娘にモテてー!めっちゃモテてー!これが男の最大のアジェンデですよ!
link
結局ココなんですよね。後半になるにつれキャラ描写は良くなっていきましたが、 結局最後までラブコメまでは踏み込ませて貰えなかったってのが。 なので、基本的な構造としては『水戸黄門』的な、目の前に困った人がいて、 それが女の子だったり、ヒロインに「助けてあげようよ」と言われたりとかして何とかする、という ベタですが鉄板のパターンがベターだとは思います。 敵役は主に権威主義者、人道主義者、原理主義者ですが、一番やりやすいのはやはり権威主義者でしょうね... 敵役に主義主張が必須になるので、キャラも立つようにはなると思われます。


fujisubaru
とりえあえず、ブログには書けないコメントをココで言っておこう。とにかく、この連載はしんどかった。専門知識ゼロから自分で資料収集して、「メインキャラの心理」「患者キャラの心理」プラス、そこに「動物キャラ」の3つを絡めて話作らなきゃいけなくて、室内が多いので絵作りが難しくて・・・
link
「敵役の正義」は『動物がお医者さん!?』で言うところの「患者キャラの心理」に当てはまるでしょう。 これで要素が一つ。 当然ながら「メインキャラの心理」にあたる「主人公 (ダークヒーロー) の正義」も必要になってきます。 但し、「主人公 (ダークヒーロー) の正義」に関しては、ほぼ固定されると思うので、どう対応するかだけ考えれば済むのかなぁと。 とは言っても、このままだとダークヒーローにはならないので、いかにダークヒーローの正義で敵役の正義を傷つけるか という要素は必要になってきます。まぁ「お前の考えは間違ってる」で良さそうに思えます。

言われるままに信じるだけの知識は、ただの切れ端に過ぎない。
切れ端としては立派でも、それを集める人の知識の蓄えを少しも増しはしない。
『人間知性論』 ジョン・ロック

例えばこんな感じの格言を突きつけるとか。
ただ、こうすると哲学的な知識が必要にはなってくるんですけどね... (ぶっちゃけ私は哲学的な知識持ってません)
テーマを「表現の自由」据えた段階で、哲学的な知識は必須なんですけども。


基本的な構造はこんな感じとして、

コンセプトはぶっちゃけて言ってしまうと”目的のある『サラダデイズ』”です。『BoysBe』なども、女の子と仲良くなって主人公が完結すると主人公が変わったりするでしょう。でも自分は、一話完結のラブコメでありながら、同じ主人公がそれを繰り返していくこと自体に目的があるという、メタな仕組みにしようと思ったんです。
現代視覚文化研究』 Vol.3 p77

これは『神のみぞ知るセカイ』の若木先生インタビューですが、理想はその上にこのような構造がある事です。
ちょうど#3で『巌窟王』の例を出したので、それに当てはめると、
巌窟王』では主人公に取り入ることで貴族へのコネクションを築き上げ、
最終的には目標の3人への復讐を果たす。
これを、主人公は助けたいがために行動し、ダークヒーローは権威を倒すために行動する。
主人公は目の前の解決方法を探すために協力を要請し、
ダークヒーローは代わりに何らかのリスクを主人公に背負わせる。ここまでが基本的な構造。
その上に、権威を倒していくことで、最終目的の権威へと近づいていくという構造を据える、といった感じでしょうか。
(全然具体的じゃないですね...) 


『動物がお医者さん!?』もアニマルセラピーの実績を上げつつ、大学に研究室を定着させることが目的だった
という解釈もできるでしょう。
『動物がお医者さん!?』 サンデーS 2012年11月号 p785 富士昴

ラスボスの理事長が研究室を潰そうとしましたし。


で、どうやって絵作りするかですが、私の趣味丸出しでいくと小芝居って事になりますw
元々富士昴先生は動きのある絵が下手というより、常に体のバランスが取れすぎてるような気はしてたんですが、
「昴」の名前が、曽田正人の『昴』から来ているという話を聞いて、そう言えばバレエに通じる所があるのかなと。
『動物がお医者さん!?』 サンデーS 2012年8月号 p492 富士昴

西洋的というか、身体を伸ばす美しさを表現するのは上手いのかなぁと。
なので、いっそ論争の舞台をミュージカル仕立てにしてみるのも手じゃないかとw
半分冗談ですが、少なくとも独りで語るシーンでも動きを出すことはできますし、意外とイケそうな気も...
するようなしないような。


正直言って「ダークヒーロー」という共通点はあるものの、恐らく愛憎を描きたい富士先生が扱うテーマとしては
あまり適切ではないかもしれませんが、こういうテーマでも愛憎を描けるような気はします。
何にせよ、富士先生の次回作に期待しつつ、
誰か「表現の自由」をテーマにしたエンターテイメント漫画を描いてくださいよとw