爪隠の鳥呼



爪隠の鳥呼

爪隠の鳥呼

岡村美里
(C)Minori Okamura/Shogakukan 2011

戦国の世に名を轟かせた異能集団“鳥呼(とりこ)”!! 鳥と語らい…鳥を手足のように操る。主人公・隼人は、わけあってこの鳥呼を離れ独り暮らしをしている。鳥呼を狙う影現る時、バラバラになった家族に一体何が…!? 空駆ける鳥使いアクション読切! ちなみに鳥呼(とりこ)の発音は某グルメ的漫画とは別のイントネーション!!

posted with EmbedSunday on 2011-10-15

★★★★☆
ちょっと辛目かもしれません。心情的には4.4。


第四回クラサン新人王決定戦に『くちなわ祭の約束』でノミネート。記事はコチラ


絵柄に関してはセンス含め既に及第点の作家さんですが、さらにレベル上げてきました。
今回は設定もオリジナリティあって良いですし。


まずはあまり評価には関係ない重箱の隅な話。この演出はちょっと微妙。
『爪隠の鳥呼』 p36-37 岡村美里

まーフツーの人は何とも思わないでしょうけど。私も詳しいって訳ではないですが。
以前『ドナー&レシピエント』を批判した時にこう書きました。

フィクションはフィクションとして表現しつつ、その代わりにフィクション以外のところはきちんとリアリティを出す。
それによって「ここは非現実的な設定だけど他はリアリティ出すから勘弁してね」的な信頼関係が出ると思うんですよ。

この漫画だとフィクションは爪隠の里という設定と、一人の人間が大群操れるって所でしょうか。
要するに上のシーンにリアリティが無いって意味です。


鳥が獲物を捕らえるパターンは2つ。嘴と爪です。
嘴で捕らえるのは空中の昆虫、または水中の魚などを捕らえる場合に限られます。
何故なら、猛スピードで嘴から突っ込んで行ったら反動が半端ないですから。
でもって、この類の狩りをする鳥は嘴が真っ直ぐ尖っています。(ペリカンみたいなのもいますが)
箸でつまむように獲物を捕らえるのに適しています。


また、鷹などの嘴が湾曲してる鳥だと、狩りは爪オンリーです。
湾曲した嘴は、獲物の肉を食い千切って飲み込める大きさにするのに適しているのです。


という知識を得た後に上のシーンを見ると、リアリティ無いって事が理解できると思います。
演出的にどうしても嘴を使いたいというなら、ホバリングに近い状態から喰い千切る、とかですかねぇ。
大事なのは、「実際どうなんだろ?」と疑問を持つことですね。
調べることによってより効果的な演出が見つかることもあるでしょうから。


隊列について、悪くはないんですが、「鶴翼の陣」なんていう鳥にはもってこいの隊形があるのに...
それに関連して、★一つ落とした演出。
『爪隠の鳥呼』 p34 岡村美里

この書き込み量は正直頭が下がります。ホード(horde 大群)描くのって大変そうだ...
ただ、これだけのクオリティなのに演出が効果的だとは思えません。
ホードを戦闘シーンの前に出しちゃってるんですよね...
中盤までは一人につき一羽だけ操ってる演出ばかりなので尚更です。
折角ミスリードできるような流れになってるのに。


私なら、p27-29にホードを出さず、その後のシーンで例えば
「『爪隠の里に人肉を喰らう大鷲あり』って話がある。気をつけた方がいい」と一人の警護に言わせ、
別の警護に「そんな話があるものか。もしいたとして、捕まえたらさらなる大金が手に入るぞ」と言わせた後に
大きめの鷲が襲ってきて、「人肉喰らいの大鷲だ!」と混乱する警護。
対応にさんざん苦慮してる所にさらにもう一羽、もう一羽と増え、
ふと振り向くと鳥の大群が大きな鳥の形をした編隊を組んでこちらに向かってくる....
ってな感じだとより意外性、恐怖感が増したと思います。


個人的には爪で木の檻壊すのも若干微妙。いやそんなに鳥パワー無いでしょw
例えば火薬落とすとか、檻だけは主人公が壊すとか、もうちょっと納得のいく演出があったように思います。


とは言え、結構なレベルの作品を続けて出してきたので、今後も期待できそうです。
絵で魅せることはできるので、後はリアリティの追求と、絵がより引き立つ演出を、って所でしょうか。
設定面で進歩したのはかなり評価できます。