マナゴコロ 1巻 その2

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マナゴコロ 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

マナゴコロ 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

昨日の記事の続きです。
読まない方がいいと書きましたけど、結局読まれてるみたいですねw
今回も割りとdisってますので読まない方がいいですよー。


このブログのコンセプトは「批判的な記述を自重せず、なるべく建設的な意見を盛り込む」です。
なので、作家さんが読んだら傷つくような内容が盛り込まれてる場合が多々あります。
twitterなどで本人に向けて批判的なつぶやきを浴びせるってのはちょっとどうかなぁと思いますが、
ブログでコメントする事は何も問題ないと私は考えてます。
というか、作家さんに読まれることを前提で書いてません。
(実際はマイナーな作品の場合、かなりの確率で読まれてるみたいですけども)
建設的な意見を入れるというのも、「俺好みの作品を書いてくれ」という要望ではなく、
アンチスレでありがちな「批判のための批判」を避けるためです。
あくまで、「この漫画が面白くなるには、どうすればいいのか?」という私個人の思考実験で、客観的な記述って訳ではありません。
(ブログのタイトルに「宗教」と入れてるのは客観的ではないという意味を込めてです。)


作家さんが仮にこのブログを読む場合には、
「聞くに値する読者の意見はせいぜい二割程度」
「このブログがその二割入ってるかどうか怪しい」
「仮に参考にするならば、真に受けずに『こういう意見もある』程度に留める」
くらいがいいんじゃないかな?と思います。
読まないのが精神衛生上一番だとは思いますけどね!
まぁ参考にしてもらって、結果として漫画が面白くなってくれればこれ以上の喜びは無いんですけれども、
その効果が本当にあるのかは保証しかねます。所詮素人の戯言ですから。


前置きが長くなりましたが続きを。


前回の要点を書くと
1)絵に関しては決して下手だとは思いません。トレンドではないのが問題だと思います。
2)内容はお世辞抜きに面白いです。これはいくら強調してもしすぎることはないです。
3)とは言え、内容的に改善する余地はあるように見えます。


ということで、今回3)について詳しく。
一応客観的に書く努力はしてますが、どうしても目指す方向が自分好みの作品になることは注意して下さい。
それと、ココを変えても売上やアンケートにはほとんど響かないと思います。
正直なところ、ボトルネックは絵でしょうから。


ここは前回と重複しますが、門前書として参考になるのは『もしドラ』です。

一応、『マナゴコロ』でもそれっぽい箇所はいくつか出てきています。
『マナゴコロ』 1巻 p18 藪野続久

ひとつの理論を提示し、それを実践する。ここまではやってます。
ただ、概ねPDCAサイクルを回してる訳ではないんですよね。
内容的に一番の問題は、達成感があまり感じられない点だと思います。


ブコメの達成感云々に関しては、The Structure of "The World God Only Knows" #2で詳しく書きました。
この漫画も、上の記事を引用するならば

「好きな人がいる」状態から「付き合う」状態へのベクトルでいかに引っ張るか
優柔不断なり朴念仁ではぐらかすのがラブコメの基本
例えば相手に名前を覚えてもらう、挨拶するような間柄に、手を繋げる、一緒にお茶をする、等で関係が進展したという達成感を表現します。

この辺りはさすがに出来ています。
付き合う状態へのベクトルで引っ張ってますし、ヒロインのマナは朴念仁ですし、
貧乳の秘密を知る、誤解が解ける、ゼミに入る...等々で若干の達成感(ステップの細分化)は出してます。
アオイホノオ』で言うところの「ムフ♡」ですかね。
アオイホノオ』 #32 ゲッサン2011年1月号 p381-382 島本和彦

ただ、個人的には物足りませんし、心理学と達成感が絡んでない点も不満が残ります。


で、その心理学理論の出し方ですが、ことごとくMMR的なんですよね。学問的ではないというか。
それはそれで一つの方法なんでしょうけども。
この辺りは『LOST+BRAIN』にも共通してます。
LOST+BRAIN』 2巻 p66 原作:藪野続久 作画:大谷アキラ

実のところ、『もしドラ』もロジックを出すまでは似たようなもんなんです。
手元に本が無いので引用はできませんが、「『マネジメント』にはこう書かれている」といった文章が頻繁に出てきます。
そもそも学問とは「問いを学ぶ」。
「学ぶ」と「真似る」の語源が同じだという説が正しければ、「問い方を真似る」との言い換えも可能でしょうか。
もしドラ』には「『マネジメント』にはこう書かれてる。では、このロジックを野球部にどう応用するか?」
という問い、そして読者がどう真似ようとするか考える「間」があるんですよね。
フラッパーで連載中の『数学ガール』にも「間」はちゃんとあります。
この「間」が『マナゴコロ』には決定的に欠けてるように思います。


そもそも、門前書や入門書には「いかに好奇心を刺激するか」が非常に重要となります。
その一つの解が、問いを出すことです。
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』は内容もさることながら、上手いタイトルが原因でベストセラーになりました。
問いを出し、考える間があるからこそ好奇心が沸き、伏線にもなり、ミステリーにもなるんではないかと。
そして、それが解決した時に達成感も生まれる


まぁ『マナゴコロ』は門前書である、というのは私が勝手にレッテルを貼ってるだけなのかもしれませんが、
もしドラ』『さおだけ屋』が売れてるように、入門書、門前書は現在のトレンドですから、
なるべくこれに沿った構成にした方がいいと思いますね。『数学ガール』も門前書ですし。


読者に考えさせるような描写が全く無い訳ではありません。
ただ、自分が読んだところ#2の一箇所だけなんですよね。
『マナゴコロ』 1巻 p49

この構成は個人的に評価します。
ロジックがまずあり、それをいかに応用するかで試行錯誤し、思わぬ形で成立する。
要するにこのパターンをもう少しブラッシュアップしつつバラエティを出した方が良さそう、
MMR的な方法もいいけど、他にも方法があるのだから、ストーリーに応じて変化させよう、ってことです。
ただ、上の画像の後「秘密作るきっかけ無いッス」ですぐ考えるの止めてるんですよね...


キャラ自体も若干不満が。
主人公の桜坂は感情移入し易いプレーンなキャラなのは何も問題ないです。
(このブログで言うところの「着せ替え型」The Structure of "The World God Only Knows" #12-b)参照。)
ヒロインのマナも比較的いい線行ってると個人的には思います。
目が線の三田村先輩も同様。私は『帯をギュッ!とね』の斉藤っぽいなーと思いましたが。
ただ、他がちょっとキャラ弱い気がします。一応キャラクター出てはいるのですが。
このブログ的に言うと、もうちょっと記号を強めにした方がいいのかな、と。
要するにツンデレだったり、姉キャラだったりといった類型し易い設定です。
『マナゴコロ』 1巻 p112

折角「ヒューリスティック」なんて論理を知ってるのですから(私は知りませんでしたが)
これを漫画に生かしたらいいのになぁ、と。生かしてるつもりなのかもしれませんが。
見た目そのまんまなキャラでもいいですし、見た目とギャップのあるキャラでもいいです。
『ハレルヤ オーバードライブ!』 ゲッサン2010年9月号 p243 高田康太郎

オニデレ』のように二面性のあるキャラもアリでしょう。
キャラ漫画ばっかり読んでるので客観的な批判かどうかは分かりませんが、
どうもキャラのインパクトに欠けるようというか、mobっぽいんですよね。


ということで、私の案を。再三書きますがかなり自分の好みが出てると警戒しといて下さいw


基本的には構造的に一番良かった#2の展開をしつつ、たまに#4のようなロジック大放出回を出す。
...と書きたい所ですが、とりあえずお試しに#2の応用を2〜3話構成で作る、って感じでしょうか。


以下のアイデアは元々『銀塩少年』の後藤隼平先生に次回作こういうの描いて欲しいなーという妄想で、
元ネタは『アメリ』、『こわしや我聞』のGHK、『神のみぞ知るセカイ』のちひろ編辺りになります。
一応「GHK方式」と名づけましょうか。
こわしや我聞』 4巻 p132 藤木俊

GHKの場合は、主人公の妹が主人公とヒロインをくっつけようと裏で画策するというネタです。
#2も同様ですね。
このままだと#2やGHKと変わらず、達成感はやはりステップの細分化...「ムフ♡」で表現するしかありません。
『神セカ』ちひろ編は若干違います。
主人公がヒロインと別の男子とをくっつけようと画策するも、途中からヒロインが主人公になびいてしまい、
最終的には主人公とヒロインがくっつくという展開でした。
『神セカ』自体はステップの細分化から「ヒロインが変わる」「ヒロインの記憶消去」という設定で解き放たれ、
何度もヒロインとくっつくという達成感を得られる構成にしましたが、
『マナゴコロ』では「ヒロインの記憶消去」などというSF設定は使いにくい漫画です。


なのでここで一工夫。とは言っても既にこういう漫画があるのかもしれませんが。
「GHK」ののように、サブキャラがメインキャラをくっつけようと画策するのではなく、
逆に主人公とヒロインが他のキャラ同士をくっつけようと画策する漫画にするってのはどうでしょうか。
代替行為にまで繋がるかどうかは怪しいですけれども。


『神セカ』は主人公がヒロインをとっかえひっかえする為に「ヒロインの記憶消去」という設定が必要でした。
『マナゴコロ』はそこまでする必要はないでしょう。(たぶん)
あくまでそのキャラ同士が密かに両思いだという前提は必要かもしれませんが、
心理学のロジックを使ってくっつける事ができたなら、マナの「社会心理学の実験」という欲求に合致してますし、
ここである程度の達成感は出せます(PDCAサイクルも回ります)。
心理学のエッセンスをつまみ食いしてるのではなく、心理学とラブコメを両立してる感じも出るでしょう。
つまみ食い感を減らす為にも、ロジックはなるべく一つか二つに絞った方がいいかもしれません。
ロジック大放出回を作るなら、そこでギャップも出ますし。


また、桜坂がそのアシスタントになれば「クロージング効果」も期待できます。
被験者が実験をやってると分かったら意味が薄れますから、なるべく実験は秘密裏に、ってことになるでしょうし。
#2のように、ロジックの名前と解説を付け、これをどう生かすかという(『もしドラ』にもあった)パターンに加え、
ロジックの名前だけを出し、解説は試行錯誤が終わった後というパターンもアリですし
(この場合、ロジックの内容を知ってる人も知らない人も楽しめるように工夫する必要はありますが)
ロジックを出さず、もしくは一部伏せて実験を行い、どんなロジックだったのか読者に考えさせるのも手です。
「ドアインザフェイス」の辺りは後でネタ晴らしという構成にはなってますが、
これまた読者が考える余地が無いという...


くっ付けるキャラは概ね新キャラって事になるでしょうから、必然的に「ヒューリスティック」が作用し易いキャラ...
記号が強いキャラになるでしょう。ある程度キャラの説明が省けますし。
上にも書きましたが、あえて途中まで誤解させておいて実は...ってパターンも使えます。


このような「GHK方式」だと、実験成功、カップル成立で達成感は出せるはずですが(演出によりますけど)
結局のところ、桜坂とマナの関係はステップの細分化をせざるを得ません。
例えば心理学の実験自体が「ミイラ取りがミイラになる」ようなシナリオが組めばさらに良いかもしれません。
口で言うのは簡単ですが、コレをやるのはかなり難しそうなのでそこまでする必要はないでしょうけれども。
一応例を。
スタンフォード監獄実験」で、被験者だけではなく実験者も実験者の立場でロールプレイングしていたという
記述を某ブログで読みましたが、これが客観的な事実なのかどうかは分かりません。
漫画の例としては
神のみぞ知るセカイ』 4巻 p80 若木民喜

ここで「恋愛に関係ないイベントで頭を埋め」と主人公の桂馬は言ってますが、
この恋愛指南自体が恋愛に関係のないイベントになっていて、ヒロインのちひろが桂馬を好きになるロジックになってます。


何にせよ、最終的には桜坂とマナがくっ付けたカップル達が、二人をくっ付けるように画策する。
ってのが美しいかなぁと。


ちなみに、なして後藤先生にこういう漫画描いて欲しいと思ったかと言うと、
まず恋愛漫画を描く人だというのが一つ。(当たり前)
後は、実は後藤先生ってイタズラ好きっぽいんですよね。
スペイン編の辺り見てもらえれば分かると思いますけれども。
なのでイタズラで他人を幸せにするような漫画を描くといいんじゃね?という感じです。