The Structure of "Ice Hockey Princess" #2

予定より1ヶ月遅れましたが、The Structure of "Ice Hockey Princess" #1 の続きです。
#3に続きます。
右上にも書いてますが、リンクはなるべく控えて貰えると助かります。特に某SPとか。


4) 重要性が増したコスプレ型主人公
#1で着せ替え型主人公 (読者が感情移入し易いプレーンなキャラ) について述べましたが、
欠点...憧れを抱きにくい点について書いていなかったので、まずはそちらを。

■『スラムダンク』(井上雄彦/集英社)“Slam Dunk
米国と日本のメディア市場の反応が乖離した一番の例が『スラムダンク』。
(中略)
今までのマンガに類を見ない、驚くほど熱く芸術的なマンガだが、苦戦の理由は、バスケットボールファンがたとえマンガを読むとしても彼らにとってのヒーローは、アスリートではなくスーパーヒーローという点。その上、桜木花道がプロではなく初心者で、練習を積んでいくストーリーは生ぬるく、米国人をイライラさせるのだ。若い子たちにとっては健全なストーリーかもしれないが、ティーンたちはスターに憧れるもの。出版社がNBAのバスケットボール選手をプロモーションに起用するなど面白い取り組みをしたものの残念ながら、ジャンプタイトルの中で、米国史上最も売れない作品となってしまった。
ダ・ヴィンチnews 日本で大ヒットも…、米国で苦戦中の4つのマンガ

スラムダンク全31巻完結セット [マーケットプレイス コミックセット]

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この記事は、着せ替え型主人公の欠点がモロに反映された例と言えるでしょう。
実のところ、最近では日本でも着せ替え型が敬遠される傾向にあります。
(ソースはありません。twitterで漫画編集者の誰かがつぶやいてた記憶はあるのですが...)
ただ、日本における傾向はアメリカに近づいて来たか?と言われると、少々勝手が違います。

 一九七三年から八六年までの少女漫画全盛期には「これって私」という享受が専らでした。主人公の少女が置かれた関係性に、読者が自分を重ね、これはまるで自分のようだと感じつつ、現実世界における自分と世界との関係を参考にして解釈する、といった享受の仕方でした。
 それまでの少女漫画は、主人公が欧風の名前のお姫様だったり、虐げられまくりの孤児だったりと、読者の現実からかけ離れた設定のもとで、波瀾万丈の代理体験を提供するものでした。つまり一九七三年に、少女漫画は<代理体験もの>から、<関係性のもの>へと変化したわけです。


(中略)


 ところがそうした時代は、一九八六年頃に終息してしまいます。この変化を、僕はコマーシャルの変化の分析をもとに「ユーミン的なものからドリカム的なものへ」と表現してきました。同じ「これって私」でも、時の流れを前提にした関係性から、十五秒コマーシャル的なシーンへと変化したのです。


(中略)


 僕にとっては、「物語消費からデータベース消費へ」よりも「関係の履歴から事件の羅列へ」ないし「関係の履歴からシーンの羅列へ」という動きの方が問題です。そうした関係性からの退行現象の一つのブランチとして、データベース的消費やキャラ的消費が存在するのだと僕は思います。
(※引用者注 ブランチ branch = 支流、枝分かれしたもの。 朝昼兼用の食事はbrunch)
『日本の難点』p25-27 宮台真司 幻冬舎新書

日本の難点 (幻冬舎新書)

日本の難点 (幻冬舎新書)

著者はあくまで少女漫画について語っています。
私は少女漫画について何も分かりませんが、少年漫画でも似たような傾向があるように思います。
アメリカの状況は先の記事が正しいとするなら、読者は<代理体験もの>を求めてる事になります。
しかし、日本の状況は<関係性のもの>から<代理体験もの>へと戻った訳ではありません。


ここからは私の想像なので話半分未満で読んでください。


先に「最近では日本でも着せ替え型が敬遠される傾向にあります」と書きましたが、
少女漫画が相変わらず「これって私」 (正に着せ替え型主人公です) である事からも分かるように、
この傾向には一つの条件が付きます。
ジャンルが男性向けのバトルやスポーツの場合には、という条件が。


着せ替え型主人公の最大の長所は共感し易い事です。
女性向け漫画にとって「これって私」のように共感できるか否かは最重要な要素ですが、
男性向け漫画にとっては、女性向けほどには重要ではありません。
その上、「関係の履歴からシーンの羅列へ」という動きは、
RPG的な要素...共感できる主人公がだんだん強くなっていく...
の重要度が下がることを意味します。
さらに言うと、作品に対する読者の「関係の履歴」も希薄になる訳ですから、対応が刹那的になり、
少しでも我慢を強いられたり面白くないシーンが続くと、読者は見切ってしまいます。


こういう事を書くと「またゆとりか」などと思われがちですが、
刹那的になっている原因はコミュニティの崩壊が最大の原因ですけども、
コンテンツの爆発的な増加に依るところも大きいです。
今の世の中、漫画は溢れかえってるので、他にいくらでも選択肢がある訳ですし。
かつてアニメ『マジンガーZ』は空を飛ぶまで1年掛かったらしいですが、
今ではそんな悠長な事をしていたら他のアニメに視聴者を取られかねません。
となれば、いかにキャラやシーンで読者の気を引き続けられるか。
ケータイ小説『恋空』や『あたし彼女』は文章レベルの低さから兎角叩かれがちですが、
(レベルが低い事には同意しますけど)
一度に描写できる文章量が少ないケータイ小説でも、テンポを崩さずに衝撃的なシーンの連続で、
読者の関心を引き続けているという意味において (だけ) は良く出来たコンテンツである...
少なくとも読者のニーズに合った作品だとは言えるのではないでしょうか。


『氷球姫』 1巻 p16-17 小野ハルカ

シーンの羅列となると、記号がハッキリしつつ格好いいコスプレ型キャラの方に軍配が上がります。
元々「関係の履歴」を濃密に描けない連載開始当初では尚更です。
常に打ち切りと隣合わせの週刊連載漫画で、ジャンルがスポーツやバトルの漫画を描こうとするなら、
コスプレ型のキャラを主人公に、最低でもサブ主人公として据える事がセオリーとさえ言える
そんな時代になったのではないかと考えます。
最も顕著な例が、かつては着せ替え型主人公だった『ファンタジスタ』のてっぺいが、
ファンタジスタ・ステラ』になっててっぺいと本田△のコスプレ型主人公2人+着せ替え型の塁の
ある意味主人公3人制になった事が挙げられます。
例えば『ベイビーステップ』は典型的な着せ替え型主人公ですが、
この漫画が週刊少年スポーツ漫画最後の着せ替え型主人公になるかもしれません。
『ベビステ』も初期は打ち切りラインギリギリではないかと何度も囁かれた漫画でした。


5) 感謝
中々『氷球姫』自体の批評の話になりませんが、

何にせよ、着せ替え型の主人公なら上記の文章のような理由でカウンセリングする事...
女の子の悩みを解決するように頑張る訳です。
(中略)
そして、女の子に感謝されることで達成感を出す。
ただ、現時点ではこの辺りは正直言って物足りないです。
詳しくは#2で「いかに感謝の描写が大切か」について書く予定でいますけど、
こういった所を描けない作家さんという訳ではないので、
スタートダッシュを決めるためにストーリーを巻き気味にした弊害なのかもしれません。
The Structure of "Ice Hockey Princess" #1

こう予告した手前、書かない訳にもいかないので。
以前本垢で書いたものの焼き直しですがご容赦を。


ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、私は以前趣味でフラッシュを作ってました。
少なくとも技術的にはかなり低いものでしたけども、そのうちの一つが
Japan On the Globe(142) 国際派日本人養成講座 地球史探訪: 大和心とポーランド魂
この記事を元ネタとして作った『大和心とポーランド魂』です。
ちなみに下の動画はフラッシュ公開後に
TBS『世界ふしぎ発見』第801回『国境を越えた希望の架け橋 シベリア孤児を救え!』
のキャプチャーを加えた『大和心とポーランド魂 New Version』です。

元ネタが素晴らしいので、割と感動的できるフラッシュになっていると思います。


最初は記事の順番どおりでレジスタンスのくだりまでをフラッシュ化したのですが、
どうもイマイチでした。
いやそれなりに感動はするんですけど、記事を読んだ時のような感動には至らず。
あれこれ弄っても上手いこといかず悩んだ後に「記事を読んでドコで感動したのか」
を再確認しようと思いついて、ようやく原因が分かりました。

 私は生きている間にもう一度日本に行くことが生涯の夢でした。
そして日本の方々に直接お礼を言いたかった。しかしもうそれは叶えられません。
しかし、大使から公邸にお招きいただいたと聞いたとき、這ってでも、伺いたいと思いました。


何故って、ここは小さな日本の領土だって聞きましたもの。


今日、日本の方に私の長年の感謝の気持ちをお伝えできれば、もう思い残すことはありません。
Japan On the Globe(142) 国際派日本人養成講座 地球史探訪: 大和心とポーランド魂

まぁ小題でネタバレしてるのですが、感謝の気持ち
これが含まれてなかったので感動に結びつかなかったんですね。

『氷球姫』 1巻 p80 小野ハルカ

ただ、現時点ではこの辺りは正直言って物足りないです。
The Structure of "Ice Hockey Princess" #1

とは言っても、感謝を表明してるだけでは感動には結びついてくれないと考えます。
どう描写すれば感謝を感動に結びつけられるかを、先の記事とフラッシュを参考に考えてみました。


5-a) 情熱
上のシーンで一番物足りないのはココです。というかこの要素は必須だと考えます。
逆を考えればすぐ分かります。感情無しに「ありがとう」と言われても何も伝わりませんから。

ここに、ポーランド国民は日本に対し、最も深い尊敬、最も深い感銘、最も深い感恩、最も温かき友情、愛情を持っていることをお伝えしたい。
極東委員会副会長(当時) ヤクブケヴィッチ
Japan On the Globe(142) 国際派日本人養成講座 地球史探訪: 大和心とポーランド

そもそも感動というのは感情を揺さぶるものの一つですから、
感情が籠ってなければ感動も出来ないのは冷静に考えれば当然です。


5-b) 切実
この要素が描かれていない訳ではないですが、描写としては軽いです。
この要素も感動には必須でしょう。
例えば1円玉を拾ってもらって「ありがとう」と言われても感動には繋がりませんし、
そこに情熱を注ぎようもありません。

 シベリアは長い間、祖国独立を夢見て反乱を企てては捕らえられたポーランド愛国者の流刑の地だった。1919年、ポーランドがロシアからようやく独立した頃、ロシア国内は革命、反革命勢力が争う内戦状態にあり、極東地域には政治犯の家族や、混乱を逃れて東に逃避した難民を含めて、十数万人のポーランド人がいたといわれる。


その人々は飢餓と疫病の中で、苦しい生活を送っていた。とくに親を失った子供たちは極めて悲惨な状態に置かれていた。せめてこの子供達だけでも生かして祖国に送り届けたいとの願いから、1919年9月ウラジオストク在住のポーランド人によって、「ポーランド救済委員会」が組織された。
Japan On the Globe(142) 国際派日本人養成講座 地球史探訪: 大和心とポーランド

感謝に情熱が込められるには、どれだけの災難・難題に直面していたかや、
願いがいかに切実であったかを描写する必要があります。


5-c) モノローグ
この要素は必須とは言いませんが、それに近い要素ではあると考えます。

看護婦さんはミイラのように白い布に包まれた私をベッドに寝かせると、
布から顔だけ出している私の鼻にキスをして微笑んでくれました。
(ひどい目に遭ってきた)私はこのキスで勇気をもらい、知らず知らずのうちに泣きだしていました。
アントニーナ・リーロー
TBS『世界ふしぎ発見』第801回『国境を越えた希望の架け橋 シベリア孤児を救え!』

感謝されることに感動するというのは、感謝する人に共感する事で得られる感情です。
努力が報われた場合もあるでしょうけども。
共感を促すには、その人から見てどう感じたかを描くのがセオリーでしょう。
その為の漫画的手法となると、基本的にはモノローグという事になります。
上の引用した文章を想像すれば分かると思いますが、
看護婦さんの立場になって、包帯ぐるぐる巻きになってる女の子にキスしたシーンを描くのと、
女の子の立場になって、看護婦さんにキスされるシーンを描くのとでは全然印象が変わってきます。


5-d) 修辞(レトリック)
これも必須という訳ではありませんが、

 私は生きている間にもう一度日本に行くことが生涯の夢でした。
そして日本の方々に直接お礼を言いたかった。しかしもうそれは叶えられません。
しかし、大使から公邸にお招きいただいたと聞いたとき、伺いたいと思いました。
今日、日本の方に私の長年の感謝の気持ちをお伝えできれば、もう思い残すことはありません。

先に引用した文章から修辞の部分を抜くと、比較すれば無味乾燥に近くなってしまいます。

しかし、大使から公邸にお招きいただいたと聞いたとき、這ってでも、伺いたいと思いました。


何故って、ここは小さな日本の領土だって聞きましたもの。

表現に上手く修辞を加えれば、より潤いのある表現になるのではと。


5-e) 互酬性
新しい言葉を覚えたての中学生のように最近このブログで乱発してる言葉ですが、
それだけ大切なものだという事でひとつ。

 「何時までも恩を忘れない国民である」との言葉は、阪神大震災の後に、実証された。96年夏に被災児30名がポーランドに招かれ、3週間、各地で歓待を受けた。


世話をした一人のポーランド夫人が語った所では、一人の男の子が片時もリュックを背から離さないのを見て、理由を聞くと、震災で一瞬のうちに親も兄弟も亡くし、家も丸焼けになってしまったという。焼け跡から見つかった家族の遺品をリュックにつめ、片時も手放さないのだと知った時には、この婦人は不憫で涙が止まらなかった、という。


震災孤児が帰国するお別れパーティには、4名のシベリア孤児が出席した。歩行もままならない高齢者ばかりであるが、「75年前の自分たちを思い出させる可哀想な日本の子どもたちがポーランドに来たからには、是非、彼らにシベリア孤児救済の話を聞かせたい」と無理をおして、やってこられた。


4名のシベリア孤児が涙ながらに薔薇の花を、震災孤児一人一人に手渡した時には、会場は万雷の拍手に包まれた。75年前の我々の父祖が「地球の反対側」から来たシベリア孤児たちを慈しんだ大和心に、恩を決して忘れないポーランド魂がお返しをしたのである。
Japan On the Globe(142) 国際派日本人養成講座 地球史探訪: 大和心とポーランド

尺の関係でフラッシュには入れられなかった話です。
互酬性の描写をしたものとなると、コチラのフラッシュ方がより分かり易いかもしれません。

今見ると「あんま日露戦争関係なくね?」と思ったりもするのですがねw
構造的にみると、「恩を返す」ことは情熱の描写でもありますし、
助けた人が逆に助けられる側になるモノローグを描写できるチャンスにもなります。


5-f) 感動を与えるには
結論として、感謝の描写で感動を与えるには上の5つの要素を入れればいいという話になりますが、
(他にもあるかもしれません)
では『氷球姫』でどういう風に取り込めばいいのか。
先のシーンを修正するとするなら、


常盤木が臨時監督になる前後の変化がいかに切実だったかを梅ヶ枝さん視点で描き、
常盤木が何らかのピンチに陥った時に互酬性を発揮する。
その時に何かしらの修辞が効いていればモアベター


という事になります。3行で済む話をこんだけ長い文章でダラダラ書く俺って...
とは言っても、個人的にはこれらの要素をあえてまだ出さなかったのではないか
と考えています。
理由は2行目。常盤木が何かしらのピンチに陥る伏線はもう張ってあるので。
その時にきちんと感動できる描写になるかどうか。その辺りを期待したいところです。


#3は感動以外の課題と、この作品の面白い所を書ければなぁと考えています。
課題と言っても、前作『氷の国の王子様』ではやれてた事なので、
こちらもまだ出してないだけと解釈はしてるのですけども。
次はもう少しこの作品自体の事を書きますw